補修方法編活用上の留意点等

 補修方法編を活用する際や、補修工事の検討に際しての留意すべき点を以下に示します。

    • (1)補修方法編活用上の留意点
      • ①補修方法編は、紛争処理時点の資料集(最新版)を活用することを想定しています。しかし、建設時期によって、当該建築物に適用されている法令、基規準等が現行の内容と異なっていたり、新たに制限等が加えられている場合があるため、事前調査や詳細調査の結果をもとに、最新版の資料集の補修方法を適用することが可能かどうかを個別に検討する必要があります。
      • ②補修方法等の解説は、一般的な地域において一般的な材料・構造等による住宅を前提としたものであるため、本編の活用にあたっては、個別の案件毎に地域性や住宅の材料・構造等の特性を配慮した上で参考とする必要があります。
      • ③文献・資料等から引用・参考している補修方法を活用するにあたっては参考文献欄に記載してある原典もあわせて確認する必要があります。
      • ④補修方法編に掲載している引用・参考文献は、原則最新の版としていますが、必要に応じ旧版又は絶版を掲載している箇所があります。この場合は、引用・参考文献名の後ろに【旧版】又は【絶版】を付してあります。
      • ⑤補修方法編に掲載している引用・参考文献のうちすでに絶版になっているもの、また入手困難な文献もありますが、これらの文献のほとんどは、住宅紛争処理支援センターに保管されているので、紛争処理において活用する場合は、住宅紛争処理支援センターにお問合せください。
      • 〇補修方法編に掲載している図等に記載のある「chord」は「Center for Housing Renovation and Dispute Settlement Support」の略称であり、「住宅リフォーム・紛争処理支援センター」を表しています。
      • ⑥補修すべき箇所が複数存する場合は、対応する補修方法の例を幅広く踏まえつつ、できる限り一度で完了させる等、合理的な工事の実施方法を検討することが重要です。
      • ⑦工事手順等はあくまでも例示であり、実際の工事の手順等については、個別の案件の具体的な状況を勘案した上で検討する必要があります。
      • 実際の工事にあっては工事手順が省略・前後したり、内容が異なる場合があります。
      • ⑧補修方法編に掲載している図版は、一般的かつ汎用的な内容とするために詳細な仕様(数値や材料、品質など)の記載を、参考文献からの転載等の場合を除き、割愛しています。実際の工事に際しては構造計算や補修方法等の解説に掲載している引用・参考文献等を参考に具体の仕様を決定する必要があります。
      • ⑨補修方法編では、次のように法令等の正式名称を略称しています。

・法令告示

<略称> <正式名称>
建基法 建築基準法
建基法令 建築基準法施行令
建告 建設省告示(例 平12建告第1347号……平成12年建設省告示第1347号)
国交告 国土交通省告示(例 平14国交告第1540号……平成14年国土交通省告示第1540号)
品確法 住宅の品質確保の促進等に関する法律
省エネ法 エネルギーの使用の合理化等に関する法律
建築物省エネ法 建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律
経産・国交告 経済産業省・国土交通省告示(例 平28経産・国交告第1号…
…平成28年経済産業省・国土交通省告示第1号)
  • (2)補修工事の検討に際しての留意点
    • ①事前調査(書類調査(設計図書等や施工記録等)・現地調査)は、補修工事の検討を行う上で、重要です。また、補修の内容や資料の整備状況等によっては詳細調査が必要となる場合もあります。
    • ②補修工事の実施にあたっては、必要となる設計図書等や、清掃、点検期間等も見込んだ工程表の作成、施工するときの環境条件に対する十分な検討など、合理的な工事の実施に努めることが重要です。
    • ③当該工事の実施に伴い近隣等に及ぼす影響について配慮した上で、補修方法を選定することが必要です。
    • ④構造躯体の一部を補強する補修方法等の採用を検討する場合、補修による建物全体の構造安全性に及ぼす影響も併せて検討する必要があります。特に、鉄骨造の場合のブレースや、鉄筋コンクリート造の耐力壁等は、その構造的特性により、建物全体に及ぼす影響が大きいと考えられるため、全体の構造バランスを考慮したうえで補修方法を選定し、補修工事に係る設計を行う必要があります。
    • ⑤補修方法の内容が建築基準法等の関係法令に適合していることが必要です。 中でも、枠組壁工法又は木質プレハブ工法の住宅の場合は、特に以下の告示に留意する必要があります。
      • 平13国交告第1540号「枠組壁工法又は木質プレハブ工法を用いた建築物又は建築物の構造部分の構造方法に関する安全上必要な技術的基準を定める件」
      • 平13国交告第1541号「構造耐力上主要な部分である壁及び床版に、枠組壁工法により設けられるものを用いる場合における技術的基準に適合する当該壁及び床版の構造方法を定める件」
    • ⑥あと施工アンカー及び連続繊維シートの使用は、「あと施工アンカー・連続繊維補強設計・施工指針」(平成18年4月10日付け国住指第79号「あと施工アンカー・連続繊維補強設計・施工指針」について(技術的助言)により制定、最新更新は同年7月7日付け国住指第1015号)において、耐震改修や付加的な補強等に限定されているため、適用にあたっては個別の条件に基づいて十分な検討を行う必要があります。
       なお、あと施工アンカーの使用については、平13国交告第1024号「特殊な許容応力度及び特殊な材料強度を定める件」が令和4年3月31日に改正され、国土交通大臣が許容応力度及び材料強度を指定できるあと施工アンカーについて、「既存の鉄筋コンクリート造等の部材とこれを補強するための部材の接合に用いるもの」から「既存の鉄筋コンクリート造等の部材と構造耐力上主要な部分である部材との接合に用いるもの」に適用可能な建築物及び使用できる部位が拡大されました。
       また、告示改正後も、既存の鉄筋コンクリート造等の部材とこれを補強するための部材との接合に用いるあと施工アンカーにあっては、「あと施工アンカー・連続繊維補強設計・施工指針」に基づいて、引き続き強度指定を受けることが可能であり、既に強度指定を受けた適用範囲内において、引き続き使用することができるとされています。
       資料集においても、あと施工アンカーを採用した補修方法を一例として複数掲載していますが、あと施工アンカーを使用しない他の補修工法も選択肢として検討した上で、適用する補修方法を選定してください。
    • ⑦建設住宅性能評価書が交付された住宅については、「契約上約束された」表示性能が確保されていることが必要であり、表示性能が確保されていない場合には「修補(※)」、「修補とともに行う損害賠償請求」又は「修補に代えて行う損害賠償請求」による対応を行うことが必要です。 「修補」を行う場合は、特に以下の品確法に基づく評価方法基準に留意してください。
      • 平13国交告第1347号第5の1「構造の安定に関すること」
      • 平13国交告第1347号第5の3「劣化の軽減に関すること」
    • ※ 民法においていう「修補」は、本編においていう「補修」のことです。
    • ⑧設計に瑕疵がある場合、当初の設計どおりに回復させることが適切でないこともあるため、別途設計を含めて補修方法を検討することが必要です。
    • ⑨不具合事象の原因となる部分の補修を行わない限り、不具合事象は継続して発生するため、不具合事象のみの補修に終わらないよう、留意する必要があります。
    • ⑩特殊な構造方法を用いたプレハブ住宅等にあっては、特殊な補修方法等を採用しなければならない場合がある(型式住宅部分等製造者認証に係る型式住宅部分等については、その認証に係る型式に適合する補修方法によることが原則となる。)ため、補修方法等に疑義が生じた場合は必要に応じて住宅紛争処理支援センターに情報の提供を求めることができます。
    • ⑪本資料集においては、建築物の解体又は補修を行う場合、石綿を含まない建材等の使用を想定しています。そのため、石綿を含む建材等を使用している場合は、建築基準法等の関係法令及び石綿障害予防規則、大気汚染防止法等の関係諸規程に基づき、石綿による被害の防止を図るための措置を講ずる必要があります。
    • なお、大気汚染防止法の一部を改正する法律(令和2年法律第39号)及び石綿障害予防規則等の一部を改正する省令(令和2年厚労省令第134号)の施行により、「石綿含有仕上塗材及び石綿含有成形板等に対する規制の拡大」、「事前調査結果の報告の義務付け」、「作業記録の作成・保存の義務付け」等の見直しが行われました。
    • [石綿障害予防規則等における規制内容の早見表]
    • ■工事開始まで
    • 00_補共3_(2)10_石綿規制早見表_工事開始まで_2021
    • ■工事開始後(石綿含有建材を扱う作業に限る)
    • 00_補共3_(2)10_石綿規制早見表_工事開始後_2021
    • 厚生労働省HP(https://www.ishiwata.mhlw.go.jp/pdf/leaflet-worker.pdf)より抜粋)
    • [大気汚染防止法における事前調査結果の報告が必要な工事概要]
    • ①建築物を解体する作業を伴う建設工事であって、当該作業の対象となる床面積の合計が80㎡以上であるもの。
    • ②建築物を改造し、又は補修する作業を伴う建設工事であって、当該作業の請負代金の合計額が100万円以上であるもの。
    • ③工作物を解体し、改造し、又は補修する作業を伴う建設工事であって、当該作業の請負代金の合計額が100万円以上であるもの。
    • (注1)上記以外の工事であっても、建築物等の解体・改修時には事前調査の実施、調査結果の保存等が必要です。
    • (注2)詳細については「建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル」をご参照ください。
    • 環境省HP(https://www.env.go.jp/air/air/post_48/20210715%20_jizenchousa_chirshi.pdf)より抜粋)
    • 石綿による被害の防止を図るために必要な措置、規制等に関する参考文献等を以下に示します。
      • 「建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル(令和3年3月)」(厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課、環境省水・大気環境局大気環境課)
      • 「建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル(令和3年5月)」((株)ぎょうせい編集・発行)
      • 「令和2年石綿障害予防規則改正対応版 建築物等の解体・改修工事等における石綿障害の予防」(建設業労働災害防止協会編集・発行)
      • 「石綿(アスベスト)含有建材データベース」(国土交通省・経済産業省)
      • 「公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)令和4年版」1章5節、9章1節(国土交通省大臣官房官庁営繕部監修/(一財)建築保全センター編集・発行)