使用する検査機器


建築

機器の名称 赤外線サーモグラフィ装置
機器の使用目的 外壁における仕上材(タイル外壁およびモルタル塗り外壁)の浮きの確認
機器の概要
赤外線サーモグラフィ装置は、対象物表面から放射される赤外線放射エネルギーを検知し、見かけの温度に変換しその温度分布を画像表示する装置である。
仕上材が浮いている部分では、内部に生じた空気層が健全部に比較して熱を伝えにくくなる。浮き部に日射があたったり、外気温が上昇したりする場合は、健全部より高温になり、逆に日射が無くなり、外気温が低下する夜間には低温になる。
赤外線サーモグラフィは、この特性を利用して建物のタイル外壁またはモルタル塗り外壁の浮き部と健全部の熱伝導の相違によって生じる表面の温度差を映像化し、浮きの有無を可視化するものである。本用途に用いる赤外線サーモグラフィ装置の仕様を下表に示す。
浮き部に温度差が生じる原理
図版提供:一般社団法人日本赤外線サーモグラフィ協会
赤外線サーモグラフィ装置の諸元
項目 諸元
最小検知温度差 0.1℃以下(30℃黒体において)
表示画素数 320×240程度以上
熱画像のデータ形式 温度情報が記録されており、温度分析が可能な状態となっていること
引用:「定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査ガイドライン」(赤外線装置を搭載したドローン等による外壁調査手法に係る体制整備検討委員会/令和4年3月/p36)

【視野と空間分解能】
対象物までの測定距離と最小検知寸法の関係を下図に示す。距離が離れると視野が広くなり一回に計測できる範囲は大きくなるが、最小検知寸法も同時に大きくなってしまうため注意が必要である。

12_機器使用-建築16_1機器概要_分解能_2022
空間分解能、最小検知寸法、視野角及び瞬間視野角の関係

引用:「NDIS3005:赤外線サーモグラフィ試験用語」
(一般社団法人日本非破壊検査協会/令和4年2月17日改正)
【赤外線サーモグラフィ装置】
現在は、赤外線カメラとLCDモニター、メモリカードへのデータ記録装置が一体化し、小型軽量でバッテリーにより動作し簡単に持ち運ぶ事ができるものが主流となっている。
赤外線サーモグラフィ装置の例
使用方法の概要
1.
現地予備調査
日射状況の確認
建物外壁の面ごとの日射の当たる時間帯、周辺建物や樹木等の日陰となる部分及び直射日光の反射光の入射する位置を確認する。
建物の構造により測定できない部分の確認
軒裏、出隅、入隅、庇の先端、笠木、窓台並びに開口部、水平打継ぎ部の周辺及び斜壁
赤外線サーモグラフィ装置の設置場所の確認
測定角度30°以内に赤外線サーモグラフィ装置を設定できない場合、公道、隣接敷地対面建物の屋上、屋外避難階段、窓及びベランダ等の利用の可否の確認
引用一部修正:
「タイル外壁及びモルタル塗り外壁 定期的診断マニュアル(第4版)」
(公益社団法人ロングライフビル推進協会(BELCA)/令和5年9月/p27)
  


2.
調査計画の立案
調査時期及び時間帯等の設定
外壁浮き部と健全部の温度差が期待できる時間帯を、調査対象壁面の方位ごとに、新エネルギー・産業技術総合開発機構や気象庁のデータなどを参考にして設定する。
赤外線サーモグラフィ装置の設置場所の選定
建物外壁と赤外線サーモグラフィ装置の距離は、調査壁面における最小検知寸法が、検知すべき浮きのサイズ以下となる場所に設置する。本条件を満たすために適宜望遠レンズや広角レンズを使用するか、条件を満たす別の場所を選定する。
赤外線サーモグラフィの仰角
調査対象壁面に対してできるだけ真正面から撮影するのが望ましい。真正面からの撮影が困難な場合は、水平、垂直とも測定角度30°以内となる範囲で三脚を使用して赤外線サーモグラフィ装置をセットする。やむを得ない場合は45°まで許容できる。
可視画像の併用
壁面に汚れ、エフロレッセンス及び錆水等が付着し、浮きと誤認し易い場合等もあるため、可視画像による映像を併用して診断を行うことが望ましい。
仰角の制限
水平角の制限
引用一部修正:
「タイル外壁及びモルタル塗り外壁 定期的診断マニュアル(第4版)」
(公益社団法人ロングライフビル推進協会(BELCA)/令和5年9月/p29、75図5、6)
3.
測定(撮影)
赤外線サーモグラフィ装置を予め計画された場所に設置する。部分打診と比較できるように、特に浮き部が鮮明に現れるように温度範囲、焦点を設定する。
同一位置から測定する対象壁面の撮影開始位置と終了位置を設定する。
左右の撮影画像が若干重なるように水平振り角を設定する。同様に上下の撮影画像が若干重なるように垂直振り角を設定する。
引用一部修正:
「タイル外壁及びモルタル塗り外壁 定期的診断マニュアル(第4版)」
(公益社団法人ロングライフビル推進協会(BELCA)/令和5年9月/p31)



4.
測定結果の記録
事前に用意した建物の立面図上に撮影ごとの測定範囲と測定画像No.を記入する。撮影ごとの測定範囲と測定画像No.が記入された立面図の例を示す。
12_機器用-建築16_2用方法_4測定結果_図_2024
測定範囲と測定画像番号の記入例(立面図)
引用:「タイル外壁及びモルタル塗り外壁 定期的診断マニュアル(第4版)」
(公益社団法人ロングライフビル推進協会(BELCA)/令和5年9月/p32)



5.
測定データの解析・処理
赤外線サーモグラフィ法と打診法を併用し浮き部を確認した上で、測定結果を取りまとめ、画像解析して両手法を併用した部分を含めた報告書を作成する。
以下に測定事例を示す。○で囲まれた部位に浮き部と見られる高温部分がある。
可視画像の例
熱画像の例
写真提供:一般社団法人日本赤外線サーモグラフィ協会
関連する不具合事象 「外壁のひび割れ、欠損」
備考
1.
赤外線サーモグラフィによる外壁診断を行う者は、赤外線サーモグラフィに関する専門知識と外壁診断に関して一定の知識と経験を有する技術者とする。
2.
赤外線サーモグラフィによる診断には、次のような適用限界がある。
季節、天候、時刻及び気温等自然現象により影響を受けること。
雨天または曇天で日中の気温較差が5℃未満、風速5m/sec以上の場合は測定できないこと。
壁面の方位、壁面と赤外線サーモグラフィ装置の距離、仕上材の材質・形状・色調及び下地材により、調査の可否や診断結果の精度に影響があること。
壁面と赤外線サーモグラフィ装置の間に樹木や高い塀等の障害物がある場合、その影響がある箇所については測定できないこと。
建物室内の暖冷房機器または屋外機の発熱等の影響や周辺建物の影響により、適切な熱画像を得ることができない可能性があること。
赤外線サーモグラフィ装置の種類や画像処理方法により診断結果に差異を生じることがあること。
軒裏、出隅、入隅、ベランダや庇等の突起物のある場合、笠木、雨樋や柱の日陰となる部分、窓枠近傍及び凹凸の甚だしい建物では測定できないこと。
測定角度(水平方向、垂直方向とも)30°以内が望ましい。ただし、やむを得ない場合は45°以内まで許容できること。
引用一部修正:「タイル外壁及びモルタル塗り外壁 定期的診断マニュアル(第4版)」
(公益社団法人ロングライフビル推進協会(BELCA)/令和5年9月/p25)



3.
赤外線サーモグラフィによる外壁診断に関する書籍・規格などを以下に紹介する。
「特定建築物定期調査業務基準(2021年改訂版第4刷)」(一般財団法人日本建築防災協会)
「タイル外壁及びモルタル塗り外壁 定期的診断マニュアル(第4版)」(公益社団法人 ロングライフビル推進協会(BELCA))
「赤外線サーモグラフィ試験-技術者の資格及び認証 NDIS0604:2009」(一般社団法人 日本非破壊検査協会)
「赤外線サーモグラフィ試験用語 NDIS3005:2022」(一般社団法人 日本非破壊検査協会)
「赤外線サーモグラフィ法による建築・土木構造物表層部の変状評価のための試験方法NDIS3428:2009」(一般社団法人 日本非破壊検査協会)
4.
参考文献
「土木コンクリート構造物のはく落防止用赤外線サーモグラフィによる変状調査マニュアル」(一般財団法人土木研究センター/平成17年3月/p14、15、17)
「タイル外壁及びモルタル塗り外壁定期的診断マニュアル(第4版)」(公益社団法人ロングライフビル推進協会(BELCA)/令和5年9月/p25~36、49~58、69~82)
「一般社団法人日本赤外線サーモグラフィ協会」のホームページ
「定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査ガイドライン」(赤外線装置を搭載したドローン等による外壁調査手法に係る体制整備検討委員会/令和4年3月)