1.室内音環境の居住者に及ぼす影響一般に、住宅における音についての要求は「静かでありたい」という面と、「自由に音を出したい」という2つの側面があり、音に関する不具合事象等は、他から発生する音に対する「うるさい」等の不満と、自らが発生させる音が他から騒音として訴えられるために自由に音を出せないことに対する不満とに2分される。(参考1)静かでありたいという要求を妨げるものは、生活行為等により発生する騒音と、建物等を介して侵入してくる外部環境の騒音や他人が意図的に出す音である。また、自由に音を出したいという欲望を妨げるものは自己の出す音が建物等を通して他住戸で聞こえるのではないかという他人への配慮などである。これを、集合住宅を例にとって空間的体系として示すと以下のようになる。(参考1) 集合住宅における音響性能の空間的体系(引用1) 上記のように、音が気になる過程は、音圧レベルや音色、さらには情報量などの音自体の特性によることはもちろん、出す側と受ける側の条件によって大きく左右される。 例えば自分で出す音は気にならなくても、同じ音を他人が出せば気になり、不特定多数の他人の出す外部環境騒音的なものよりも、隣人など特定の他人の出す音はより気になるものである。 特に、自分の出さない、あるいは出したくても出せない種類の音や、ピアノやステレオなど、小さくも大きくもまた出す時刻までも、他人の好みで自由勝手に制御できる音ほど気になるものである。 住まい方や建築性能に対する要求条件は、個人によってまた時と場合によって大幅に変るものであり、受ける側の性別・年齢別などの一般的属性の差や個人差、また同一人でも時刻、環境、履歴、心理状態などの変動要因による差もある。 また、音を出したいという要求も同様に千差万別である。 |
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一般にひっそりと暮している老夫婦などのように、出す音や出したいという要求が少ない人ほど、自分で出す音にマスキングされないためもあって、静けさに対する要求が強い。一方で、幼児のいる若夫婦などは自分で出す音が多い反面、子供の睡眠など静けさに対する要求も強くなる。また若者や音楽家などは音を出すことに対する要求が圧倒的に強く、他からの音を気にしやすい属性者としては病人、文筆家、受験生などがあげられている。(参考2) 人間の住む環境として、騒音の全く無い状態はありえない。防音室のように外部の音の侵入を充分に遮断した室内は、かえって居心地が悪く、「聞えるけれども気にならない」程度であれば、普通は騒音の問題は発生しない。また、人の話し声などの意味をもった音(有意音)は、交通騒音その他の騒音に比べ居住者が敏感になるのが普通である。(参考2) 2.住宅における騒音の問題
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3.音の遮断性能の測定方法及びその意味建築物の室内における騒音の程度を測定する方法としては、JIS Z 8731:2019「環境騒音の表示・測定方法」や日本建築学会推奨D.5「建築物の現場における室内騒音の測定方法」(参考5)を準用する場合が多い。また、界壁を介する空気音の遮音性能、外壁開口部を介する内外の遮音性能及び床衝撃音に対する遮断性能を測定する方法としては、次に示す方法などが用いられる。界壁を介する空気音の遮音性能:
JIS A 1417:2000「建築物の空気音遮断性能の測定方法」 日本建築学会推奨規準D.1「建築物の現場における音圧レベル差の測定方法」(参考6) 外壁開口部を介する内外の遮音性能:
JIS A 1430:2009「建築物の外周壁部材及び外周壁の空気音遮断性能の 測定方法」 JIS A 1520:1988「建具の遮音試験方法」 日本建築学会推奨測定規準D.2「建築物の現場における内外音圧レベル差の測定方法」(参考7) 床衝撃音遮断性能:
JIS A 1418-1:2000「建築物の床衝撃音遮断性能の測定方法-第1部:標準軽量衝撃源による方法」 JIS A 1418-2:2019「建築物の床衝撃音遮断性能の測定方法-第2部:標準重量衝撃源による方法」 日本建築学会推奨規準D.3「建築物の現場における床衝撃音レベルの測定方法」(参考8) 実性能の参考として、音に対する測定が行われることが考えられる。しかし、測定によって得られた建物の音に対する遮断性能測定値は、音に関する不具合を判断する一つの参考とはなり得るが、測定値はいろいろな要因の影響を含むとともに、測定条件(※)によって「値のばらつき」が生じるものであるため、測定値のみによって対象住戸の遮断性能の水準を特定することは一般に難しい。 なお、住宅性能表示制度における床衝撃音対策の各等級に要求される水準についても、「床構造・受音室を拡散曲げ振動場・拡散音場とした場合」等の特定の条件において、施工・測定等のばらつきを考慮した上で一定の水準となるよう必要な対策を講じているかどうかを評価するものであるため、実際の住戸における実測値と直接対応するものではないことに注意する必要がある。
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表 表示尺度と住宅における生活実感との対応の例(引用3) 「転載の承諾を得られなかった箇所に網掛けをしております。」 |