補修方法編

基礎の沈下 アンダーピニング工法 K-1-704
RC造・S造
工事概要

基礎下に油圧ジャッキをセットし、建物荷重を反力として鋼管を支持層まで圧入する。必要箇所の圧入が完了した後、圧入鋼管の支持力を反力として建物をジャッキアップする。


06_RC補-01_K-1-301_2_図.jpg工事概要図(引用:参考文献1一部加筆)
対応する不具合と原因 不具合
  • 基礎の沈下(K-1)
原因
  • 地盤条件の設定過程の不良
  • 地盤条件設定値の不適合
  • 施工方法の選択不良
  • 基礎形式選定の不適合
  • 基礎の配置・間隔不良
  • 敷地の安全対策の不備
適用条件
  • ジャッキアップ時に必要な反力が確保できること。
  • 既設の基礎が直接基礎で、地表部分の地盤では十分な反力が確保できない場合に適用する。
  • 工事中の掘削により、掘削部分の土の撤去やそれに伴う周辺地盤の緩み等で基礎支持力が失われるため、周辺の他の基礎でこの分を負担できること(他の基礎に荷重を伝達可能な躯体剛性があり、地耐力にもその余力があること)、沈下等により躯体に過大な変形や損傷が生じないことが確認できる場合に適用する。
  • 増設の鋼管は基礎沈下での対応工法であり、鋼管の頭部は原則として軸力のみを負担し、曲げモーメントを伝達しないものとする。
  • 柱直下以外で基礎梁をジャッキアップする場合は、鋼管反力が集中することから、基礎梁のひび割れを防止するため、構造計算により安全性を確認する。
  • 既設擁壁がある場合は、擁壁が健全であることを確かめる。
工事手順の例

1.事前調査
現場調査により、適用条件を満たしていることを確認する。
沈下の状況、原因を確認し、施工計画をたて、工期を決定する。
2.準備
仮囲い、仮設電力引き込みを行う。
器材及び資材を搬入する。
3.地盤の掘削
繰り返し作業
鋼管を圧入する基礎の直下を掘削し、圧入に必要な作業スペースを確保する。(深さ:作業空間が確保できる程度)
残土処分し、必要に応じ山留めを行う。

掘削状況断面概念図(chord作成)


掘削状況の平面概念図(chord作成)
4.鋼管の設置 ①柱の直下の部分に鋼管(Φ200~400mm、長さ1m程度)
 を設置する。鋼管の垂直を確認する。
5.鋼管の圧入及び建物全体の仮受け
鋼管と基礎底面との間に油圧ジャッキを設置する。
ジャッキを作動させ、建物荷重を反力として鋼管を圧入する。追加の鋼管を溶接し、継ぎ足しながら支持層まで圧入する。
圧入後、鋼管頭部をサポートジャッキにて仮受けし、プレロードを行う。
  • 建物が沈下しないように注意しながら、3~5の工程を建物の端から順次繰り返し、建物全体を仮受けする。
給排水、ガス等の設備配管を切断、先止めする。

鋼管圧入の概念図(chord作成)


仮受け状況の概念図(chord作成)


(chord作成)
建物全体の鋼管圧入・仮受け状況の概念図
6.ジャッキアップ及び建物の水平調整
サポートジャッキ内側に油圧ジャッキをセットし、建物全体をジャッキアップして沈下を修正し、建物の水平調整を行った上で、サポートジャッキのネジを締め、本受けする。
建物レベル及び水平を確認する。
油圧ジャッキを撤去する。
給排水、ガス等の設備配管を接続する。
7.鋼管と基礎の接合
サポートジャッキごと、セメント系充填材等により、基礎の周囲を充填する。

06_RC補-01_K-1-301_5_7_図.jpgセメント系充填材等の充填時概念図(chord作成)
8.埋戻し
基礎下の掘削部分を埋め戻す。基礎下の埋戻しは転圧が十分に出来ないため、発泡モルタル又は流動化処理土等を用いる。(※1)
基礎底面から地表面まで埋め戻す。

06_RC補-01_K-1-301_5_8_図.jpg掘削部分の埋戻し(chord作成)
9.最終確認
レベルや水盛管等を用いて建物全体の設置高さ、水平を再度確認する。
器材及び資材を撤去・搬出のうえ、片付け・清掃を行う。
備考
    • アンダーピニング工法は、圧入のための反力として建物荷重を利用するので圧入力に限度があるが、圧入時には圧力計により圧入力を読みとることが可能であり、載荷試験のように支持力の確認ができる利点(通常の載荷試験とは異なり完全なものではないが)がある。
    • 施工は、ほぼ基礎下のみであり、設備配管等の盛替えにより、建物を平常通り使用しながらの施工も可能な場合がある。
    • 補修工事完了後においても、沈下の進行の有無を確認するなど、基礎や地盤の状況に注意する。
    • ジャッキアップに伴い、外壁等にひび割れ等が生じた場合には、併せて補修する必要がある。
    • 施工に際しては、以下の条件も重要である。
      • 基礎下掘削用の進入口が確保できること。
      • 圧入する鋼管を仮置きするスペースに配慮すること。
      • 基礎下掘削時に地下水の大量な湧水が生じない地盤であること。
      • 基礎に変形に伴うひび割れ等がないこと。
    • 既設の基礎が擁壁等に近接している場合は、擁壁に影響を与えないように注意して補修すること。
    • 鋼管を継ぎ足す場合、耐力低下が生じないような継ぎ手溶接を行い、鉛直精度を確保するような施工が必要である。
    • 打ち止めは圧力計により支持力を確認すると共にリバウンド量を観測し適切に判断する。
    • 鋼管はさびによる腐食しろを考慮する。(参考:参考文献5、参考文献6)
    • 鋼管を杭として用いて杭頭を固定とする場合は、構造計算により杭、基礎梁等についての安全を確認すること。
(※1)
流動化処理土は、土砂に大量の水を含む泥水(もしくは通常の水)と固化材を加えて混練することにより流動化させた湿式土質安定処理土で、人手による締固めが難しい狭隘な空間などに流し込む施工で隙間を充填し、固化後に発揮される強度と高い密度により品質を確保する埋戻し材料である。(参考:参考文献2、参考文献3、参考文献4)

参考文献

書名[該当箇所](監修) 編著者 発行所
1 建築技術1995年9月号[p54~62,98~99] 田村昌仁・間瀬哲・大沢一実 (株)建築技術
2 建築工事監理指針 令和4年版(上巻)[p162](国土交通省大臣官房官庁営繕部) (一社)公共建築協会 (一社)公共建築協会
3 建築工事標準仕様書・同解説 JASS3 土工事および山留め工事・JASS4 杭および基礎工事(2022)[JASS4 5節] (一社)日本建築学会 (一社)日本建築学会
4 流動化処理土利用技術マニュアル(平成19年第2版) (独)土木研究所(株)流動化処理工法総合監理 技報堂出版(株)
5 地震力に対する建築物の基礎の設計指針[p35](建設省住宅局建築指導課) 建設省建築技術審査委員会・建築基礎検討小委員会 指針作成/日本建築センター編集 日本建築センター
6 建築基礎構造設計指針(2019)[p423] (一社)日本建築学会 (一社)日本建築学会