補修方法編

外壁のひび割れ・欠損 タイルの伸縮調整目地新設工法(ALCパネル) G-2-403
S造
工事概要
  • ALCパネル下地タイル張りにおいて、ALCパネルの伸縮目地をまたいでタイルが施工されている部分に、タイルのひび割れ・欠損・はがれ・浮きが生じている場合に、タイルの伸縮調整目地を新設し、タイルを張り替える工法である。(引用:2(1))
09_S補-03_G-2-403_2_図_2023
ALCパネルの伸縮目地部の例

タイルの伸縮調整目地新設工法例(引用:2(3)一部修正)
対応する不具合と原因 不具合
  • 外壁のひび割れ、欠損
原因
  • 外壁仕上材等の割付け不良
適用条件
  • タイルのひび割れ・欠損・はがれ・浮きが、ALCパネルの伸縮目地をまたいでタイルが張付けられた部分で発生していること。(参考:2(2))
  • 建込みにおけるALCパネルの不陸が6㎜以内であること。(参考:3(1)、4(1))

【確認事項】
  • 不具合の原因が、構造耐力上の問題の場合は、補強工事等の実施によりその問題が取り除かれていることを専門家の調査により確認する。
  • 既存と同じタイルが用意できない場合は、補修により美観上の問題が生じないことを確認する。
工事手順の例
1.事前調査
現場調査により適用条件を満たしていることを確認する。
タイルのひび割れ、はがれ等の発生状況を確認し、工事計画を立てる。
2.足場の設置
足場を設置し、工事中に発生する粉塵等が隣地に飛ばないよう、その外回りに防塵シートを張る。
3.ひび割れタイルの撤去
ひび割れ、はがれ等が生じたタイルの張替え部と健全部の縁を切るため、タイル用カッター等を用いて張替え部の周辺を切断する。(参考:2(4))(※1)
張替え部のタイルおよび張付け材(モルタル等)を撤去する。(※2)
4.伸縮調整目地の位置・長さの設定
タイルの撤去部に現れたALCパネルの伸縮目地の延長線をタイルにライン引きする。
ひび割れ、はがれ等が関係するALCパネルの全長または伸縮目地の全長の端部が分かるように印を付ける。(※3)
5.浮きタイルの撤去
タイルにライン引きしたALCパネルの伸縮目地の延長線に沿って、浮きが生じている範囲を打診用ハンマー等で確認する。
浮きがある部分は、工事手順3の方法でタイルおよび張付け材(モルタル等)を撤去する。(※2)
6.伸縮調整目地切り
工事手順4でライン引きした範囲の健全部のタイルに、タイル用カッター等を用いて伸縮調整目地切りを行う。
工事手順3および5のタイル撤去範囲に再施工するタイル割付け(工事手順8の割付け)と健全タイル部の目地割りが合わない場合は、必要な範囲の健全なタイルも撤去する。

09_S補-03_G-2-403_5_6_図_2023
タイルの伸縮調整目地切り・タイル割付け例(引用:2(5))
ALCパネルの伸縮目地部の例

ALCパネルの伸縮目地シーリング材が損傷していないか確認する。損傷している場合は、必要な範囲のシーリング材を撤去し、復旧する。(RC造S造Wー1-704参照)
伸縮調整目地切り沿いの健全タイル部に、目地切り時の振動や衝撃により浮きが発生していないことを確認する。(参考:2(4))

6から
セメントモルタル張りの場合
7.セメントモルタル張りタイル下地の施工
気温が5℃以下、または施工後5℃以下になると予想される場合は、施工は行わない。(引用:3(2))
次の下地の確認を行い、適合しない場合は適合するよう処理する。(参考:3(1))
  • ALCパネルの不陸(6mm以下)がある場合は⑤による
  • ALCパネル表面が雨水等により著しく濡れていないこと
  • ALCパネル表面にほこり、異物、ALC粉等が付着していないこと
吸水調整材のみの塗布、または吸水調整材を塗布したのちJIS A 6916(建築用下地調整塗材)に規定するセメント系下地調整厚塗材2種(CM-2)(下地調整材ともいう)を塗り付ける。(参考:3(3))
不陸(6mm以下)がある場合は、吸水調整材を塗布したのちJIS A 6916(建築用下地調整塗材)に規定するセメント系下地調整厚塗材2種(CM-2)(不陸調整材ともいう)を塗り付ける。(参考:3(3))
伸縮調整目地部に工事手順12のシーリング材を充填するための仮目地材を設ける。

不陸調整の施工例(引用:3(4)一部修正)

8.タイルの張付け
タイルは、裏あしを有しその形状が「あり状」(※4)のものとする。(参考:3(5))
タイルの張付けは、JIS A 6916(建築用下地調整塗材)附属書A(タイル張付け用モルタルの品質)における「試験用タイル張付け用モルタルの品質」に適合する既製調合ポリマーセメントモルタルを用いて、目地通りよく張り付ける。(参考:3(6))
  • タイル張り工法は、表紙張りユニットタイル(50角や50二丁、50三丁、50四丁など)の場合は、モザイクタイル張りとし、一枚張りのタイル(100×100mmや60×200㎜など)の場合は、密着張りとする。(引用:3(4))

モザイクタイル張り
(引用:3(4))
密着張り
(引用:3(7))

タイルの割付けは、タイルの張付け強度に支障が生じないタイル寸法となるようにする。
9.タイル張りの養生
張付けモルタルの硬化養生を行う。
10.目地詰め
タイル張り後24時間以上経過したのち目地詰めを行う。(参考:3(8))
目地モルタルを混練りし、塗り込んで仕上げる。
11.養正・清掃
目地モルタルの養生を行う。タイル表面に付着した余分なモルタルはぬぐい取り十分清掃する。
工事手順7で設けたタイル伸縮調整目地部の仮目地材を撤去する。
12へ
6から
外装壁タイル接着剤張りの場合
7.外装壁タイル接着剤張り下地の施工
気温が5℃以下、または施工後5℃以下になると予想される場合は、施工を行わない。(引用:4(2))
次の下地の確認を行い、適合しない場合は適合するよう処理する。(参考:4(1))
  • ALCパネルの不陸(6mm以下)がある場合は⑤による
  • ALCパネル表面が雨水等により著しく濡れていないこと
  • ALCパネル表面にほこり、異物、ALC粉等が付着していないこと
タイルの伸縮調整目地部に下記④および⑤の塗り付け面まで仮目地材(バックアップ材)を設ける。(参考:4(3))
吸水調整材を塗布したのちJIS A 6916(建築用下地調整塗材)に規定するセメント系下地調整塗材2種(C-2)(下地調整材ともいう)を塗り付ける。(参考:4(4))
不陸(6mm以下)がある場合は、吸水調整材を塗布したのちJIS A 6916(建築用下地調整塗材)に規定するセメント系下地調整厚塗材2種(CM-2)(不陸調整材ともいう)を塗り付ける。(参考:4(5))

不陸調整の施工例(引用:4(6)一部修正)

8.タイルの張付け
タイルの張付けは、JIS A 5557:2020(外装タイル張り用有機系接着剤)に適合する変成シリコーン樹脂系一液反応硬化形またはウレタン樹脂系一液反応硬化形を用いて、目地どおりよく張り付ける。(参考:4(7))(※5)
  • タイル張り工法は、接着剤張りとする。(引用:4(6))
タイルの割付けは、タイルの張付け強度に支障が生じないタイル寸法となるようにする。
9.タイル張りの養生
接着剤の硬化養生を行う。
10.目地詰め(※5)
タイル張り後24時間以上経過したのち目地詰めを行う。(参考:4(8))
目地モルタルを混練りし、塗り込んで仕上げる。
11.養生・清掃(※5)
目地モルタルの養生を行う。タイル表面に付着した余分なモルタルはぬぐい取り十分清掃する。
工事手順7で設けたタイル伸縮調整目地部の仮目地材を必要に応じて撤去する。(参考:4(11))
12へ
12.伸縮調整目地の施工(※5)
シーリング材および被着体に適したプライマー処理を行い、変成シリコーン系(一成分形)、変成シリコーン系(二成分形)またはポリサルファイド系(二成分形)シーリング材を充填する。(引用:3(9)、4(9))
13.最終確認
工事全体の仕上がりを目視で確認するとともに打診等による確認を行う。
防塵シートを取外し、足場を撤去の上、片付け・清掃を行う。
hosoku補足

(※1)ユニット単位でタイルの張替えを行う場合は、ユニットの大きさを考慮した撤去範囲とする必要がある。

(※2)張替え部のタイルおよび張付け材(モルタル等)を撤去する際、ALCパネル下地面の破損が生じた場合は、RC造S造G-2-704により破損部の修復を行い、充填した修復材の養生期間を十分にとったのち、「5.工事手順の例」の「7.セメントモルタル張りタイル下地の施工」又は「7.外装壁タイル接着剤張り下地の施工」の作業を行う。

(※3)タイル張りに生じる不具合は、ALCパネルの目地にタイルや張付けモルタルがまたがって張られていたとしても、ALCパネルの目地全長にわたらない場合もある。このような場合でも、タイルの伸縮調整目地は、不具合が生じた部分のみではなく、ALCパネル全長または目地全長にわたって設けることが必要である。(引用:2(4))

(※4)あり状とは、図7の例1に示すように、裏あしのほぼ先端部の幅(L0)とほぼ付根部の幅(L1)とが、L0>L1の関係にある形状をいう。また、図7の例2に示すような裏あしの場合、高さ(h)の中央部付近の幅(L2)がL0>L2を満足しなければならない。ただし、タイルの端部は除く。端部の形状を、図7の例4に示す。
なお、図7の例3に示すように、例1及び例2以外の形状であっても、ほぼ付根部の幅(L3)がL4>L3の条件を満たし、タイル裏面の中心部から上下又は左右対称に配列しているものについては、あり状とみなす。(引用:1(1))

09_S補-03_G-2-403_6_4_2024

図7-裏あしの形状の例(引用:1(1))

(※5)外装壁タイル接着剤張りの場合は、タイルに目地を詰める場合と、タイルに目地を詰めない場合があり、伸縮調整目地の納まりが異なる。また、接着剤を目地として露出させる場合には、耐候性に優れ変退色の少ない接着剤を選定する配慮が必要である。(参考:4(10))


09_S補-03_G-2-403_6_5図1_(a)(b)2024
09_S補-03_G-2-403_6_5図1_(c)2024
(1)タイルに目地を詰める場合の伸縮調整目地部分の納まり


09_S補-03_G-2-403_6_5図2_2024
(2)タイルに目地を詰めない場合の伸縮調整目地部分の納まり

外装壁タイル接着剤張りの伸縮調整目地の納まり例(引用:4(10)一部修正)
備考
  • ALCパネルには、「厚形パネル(厚さ75㎜以上、200㎜以下)」と「薄形パネル(厚さ35㎜以上、75㎜未満)」があるが、本シートでは、厚形パネルを用いた外壁を対象とする。なお、厚形パネルを用いた外壁は、指針や標準仕様書において厚さ100㎜以上のパネルを用いることとされている。
  • 本シートの工法を採用する場合は、ALCパネルの目地に関連しない部分についてS造G-2-402を併用する。

参考文献

書名[該当箇所](監修) 編著者 発行所
1 JIS A 5209:2020 セラミックタイル[(1)p11~12] 揖斐敏夫 (一財)日本規格協会
2 ALC外壁補修工法指針・同解説(第2版)[(1)p68、(2)p67、(3)p71(解説図7.5)、(4)p69、(5)p72(解説図7.7)] 日本建築仕上学会
ALC 外壁補修工法委員会
日本建築仕上学会
3 ALCパネル現場タイル張り工法指針・同解説(第4版)[(1)p35、(2)p33、(3)p25・36、(4)p37、(5)p27、(6)p31、(7)p38、(8)p39、(9)p32] 日本建築仕上学会
ALCパネル現場タイル張り研究委員会
日本建築仕上学会
4 ALCパネル現場タイル接着剤張り工法指針・同解説(第2版)[(1)p84、(2)p82、(3)p86・90~91、(4)p72・85、(5)p74・85~86、(6)p86、(7)p79、(8)p92、(9)p81、(10)p92~93、(11)p91] 日本建築仕上学会
ALCパネル現場タイル張り研究委員会
日本建築仕上学会
 
kanren関連文献
書名(監修) 編著者 発行所
JIS A 6916:2021 建築用下地調整塗材[附属書A タイル張付け用モルタルの品質] 揖斐敏夫 (一財)日本規格協会
JIS A 5557:2020 外装タイル張り用有機系接着剤[4.種類] 揖斐敏夫 (一財)日本規格協会