補修方法編

外壁のひび割れ・欠損 注入口付アンカーピンニング工法 G-2-309
RC造
工事概要
  • モルタルによるタイル張り又はモルタル塗り仕上げの浮き部分を躯体コンクリートに密着させるために、穿孔部分にアンカー機能と注入口を兼ね備えた注入口付アンカーピンを挿入してエポキシ樹脂を充填し、躯体と仕上材を一体化する工法である。
  • アンカーピンニング工法に比べて、総穿孔数を減らし、騒音が生じる時間を低減することができる。(参考:参考文献3)
  • 注入口付部分エポキシ樹脂注入工法(①)、注入口付全面エポキシ樹脂注入工法(②)、注入口付全面ポリマーセメントスラリー注入工法(③)があり、はく離面積や浮き幅の程度によって使い分ける。 (*1)
注入口付アンカ-ピンニング部分エポキシ樹脂注入工法(引用:参考文献1一部加筆)
注入口付アンカ-ピンニング全面エポキシ樹脂注入工法(引用:参考文献1一部加筆)
注入口付アンカ-ピンニング全面ポリマーセメントスラリー注入工法(引用:参考文献1一部加筆)
対応する不具合と原因 不具合
  • 外壁のひび割れ、欠損(G-2)
原因
  • 柱・大梁・小梁・壁の配筋方法の不良
  • コンクリートの打込み・締固めの不良、養生の不良
  • 工事中の一時的な過荷重の積載
  • 伸縮調整目地の入れ方の不良
  • ひび割れ誘発目地の入れ方の不良
  • 下地調整層の不良
  • 外壁仕上材等の選択・品質不良、養生不良
適用条件
  • タイル張替え工法の採用が困難な場合(既存タイルと同じタイルが用意できない、高層部で既存タイルの撤去が困難等)に適用可能な方法である。
  • 何れの工法も補修部分にひび割れがないかすでに補修された場合に限り適用する。
  • 何れも補修により美観上の問題が生じないことが確認された場合に限り適用する。
  • 各工法の適用条件を以下の①~③に示す。(参考:参考文献3)
    注入口付部分エポキシ樹脂注入工法(※1):
    主にはく離面積が0.25㎡程度未満、浮き代が1.0㎜程度未満の場合に適用する。
    注入口付全面エポキシ樹脂注入工法(※1):
    主にはく離面積が0.25㎡程度以上、浮き代が1.0㎜程度以下の場合に適用する。
    注入口付全面ポリマーセメントスラリー注入工法:
    主にはく離面積が0.25㎡程度以上、浮き代が1.0㎜程度超の場合に適用する。
  • タイル張り仕上げのタイル張りモルタル層と下地モルタル間及び下地モルタルと構造体コンクリート間の浮きに適用可能である。(引用:参考文献3)
  • タイルの張付け工法が、積上げ張り工法や型枠先付け工法の場合、モルタル下地のない直張り工法の場合には適用できない。(参考:参考文献3)
  • タイルの浮きが陶片浮きの場合には適用できない。(参考:参考文献3)(※2)
  • モルタル塗り仕上げのモルタルと構造体コンクリート間の浮きに適用可能である。(参考:参考文献3)
工事手順の例
1.事前調査
①現場調査により適用条件を満たしていることを確認する。
浮きの状況を確認し、工事計画を立てる。
2.準備
必要に応じて足場を設置し、施工時に発生する粉塵が隣地に飛ばないようその外回りに防塵シートを張る。
3.注入口付アンカーピン固定部の穿孔(※3)
コンクリート用ドリルを用いて注入口付アンカーピンを挿入するための穿孔を行う。
  • 穿孔は、注入口付アンカーピン外径より0.5㎜程度太い直径とし、壁面に対しに構造体コンクリートの中に20mm以上の深さに達するまで行う。(引用:参考文献2)
  • 穿孔深さは、使用する注入口付アンカーピンの長さより5㎜程度深くするが、注入口付アンカーピンの長さは構造体コンクリートに少なくとも20mm入る長さとする。(引用:参考文献3)
  • 穿孔位置がタイル陶片にかかる場合は、穿孔位置を近傍のタイル目地部分につり合いを保ちながら移動する。(引用:参考文献2)
穿孔後は、孔内をブラシ等で清掃後、圧搾空気、吸引機等で接着の妨げとなる切粉等を除去する。(引用:参考文献2)
穿孔内が湿潤状態にある場合には、穿孔内の乾燥を待ってから注入を行う。(参考:参考文献2 )

図 穿孔・清掃(引用:参考文献3)
4.材料の選定
穿孔部の浮き代を確認する。(参考:参考文献2)
  • 浮き代が異常に大きく、注入口付アンカーピン固定用エポキシ樹脂の標準注入量の25mLでは安全性に疑義がある場合は事前に注入量の増量等を検討する。(参考:参考文献3)
注入口付アンカーピンから注入するエポキシ樹脂は、建築補修用及び建築補強用エポキシ樹脂(JIS A6024)の硬質形の高粘度形または中粘度形を原則とするが、モルタルが著しく挙動すると思われる部分では、軟質形の高粘度形または中粘度形を用いることも検討する。(引用:参考文献3)
また、注入口付全面エポキシ樹脂注入工法における注入口から注入するエポキシ樹脂は、一般的には浮き代が0.5mm以下の場合は中粘度形のものが好ましく、それ以上であれば高粘度形が望ましい。(参考:参考文献3)
注入口付アンカーピン(※4)は、ステンレス鋼(SUS304)とし、呼び径は外径6mm程度とする。(参考:参考文献2)
残存浮き部分の注入材は、1.0mm以下の浮き代の場合は原則としてエポキシ樹脂とし、1.0mmを超える浮き代の場合はポリマーセメントスラリー(※5)とする。(参考:参考文献3)
5.注入口付アンカーピンの打込み(※3)
注入口付アンカーピンを孔に挿入し、ハンマーで軽く叩いて仕上げ面まで打込んだ後、専用の打込み工具で先端の開脚部を拡張し、注入口付アンカーピンを固着する。(引用:参考文献2)

図 注入口付アンカーピンの打込み(引用:参考文献3)
6.注入口付アンカーピンへのエポキシ樹脂の注入
注入用エポキシ樹脂は手動式注入器を用い、注入口から徐々に注入する。(引用:参考文献2)
  • 注入量は特記によるが、特記がなければ注入口1箇所当たり25mLとする(引用:参考文献2)(※6)

図 注入口付アンカーピンへのエポキシ樹脂の注入(引用:参考文献3)
7.穴埋め(部分エポキシ樹脂注入工法の場合の次工程は9とする。)
注入口の仕上げは、パテ状エポキシ樹脂等を用いる。表面を塗装しない場合は、パテが黄変しないか確認して材料を選択する。(参考:参考文献3)
アンカーピン固定部は、夏期で15時間程度、冬期で24時間程度は衝撃を与えられないようにし、降雨等からも養生を行う。(参考:参考文献2)

図 穴埋め(引用:参考文献3)
8.(残存浮き部分へのエポキシ樹脂の注入)(※3)
  • エポキシ樹脂の注入は、当該残存浮き代が1.0mm程度以下の場合に行う。
テストハンマー等により残存浮き範囲を再確認し、残存浮き部分への注入口の位置をチョーク等でマーキングする。(引用:参考文献2)
  • 注入口の位置は原則として固定した注入口付アンカーピン相互のほぼ中央部とする。(参考:参考文献2)
注入口の穿孔は、注入口付アンカーピン固定部の硬化を待って、マーキング位置に従って「3.注入口付アンカーピン固定部の穿孔」に準じて行う。ただし、穿孔は構造体コンクリート中に約5mmの深さまで行う。(参考:参考文献2)
浮き部への注入は手動式注入器により、残存浮き内に内圧がかからないように下部から上部へ、片端部から他端部へ、打診しながら残存浮き部全面に注入する。(引用:参考文献2)
エポキシ樹脂注入部分は、注入後24時間程度は振動や衝撃を与えないよう養生を行う。(引用:参考文献2)
8’.(残存浮き部分へのポリマーセメントスラリーの注入)(※3)(参考:参考文献2)
  • ポリマーセメントスラリーの注入は、当該残存浮き幅が1.0mm程度超の場合に行う。
注入口の位置および穿孔は、「8.(残存浮き部分へのエポキシ樹脂の注入)①②」に準じて行う。
注入により、ポリマーセメントスラリーが流出するおそれのあるひび割れ、開口部、出隅部等は、ポリマーセメントスラリー製造所の仕様により確実にシールする。
  • シール材は、適切な養生期間をとり、タックフリーになるまで指触しない。また、降雨等からも養生する。(引用:参考文献2)
注入は次による。
  • 1箇所あたりの注入量は、50mLを標準とするが、あらかじめ注入面積とモルタルの浮き代からおおよその注入量を推定しておく。(引用:参考文献3)
  • 残存浮き部に注入圧力0.1~0.25N/㎜2となるように注入する。(引用:参考文献2)
  • 注入状態を打診により確認しながら、ポリマーセメントスラリーが流出しないよう注入する。流出した場合は、直ちに注入を中止する。(引用:参考文献2)
  • 注入順序は残存浮き範囲が広い場合は一気に注入せず、数回に分けて行う。
  • 注入の終了した注入口は、コルク、木栓等で仮止めし、ポリマーセメントスラリーが固まった後に、ポリマーセメントモルタル等で平滑に穴埋めを行う。(引用:参考文献2)
ポリマーセメントスラリー注入部分は、注入後3日間は振動や衝撃を与えないよう養生を行う。(引用:参考文献2)
9.清掃
注入部以外に付着した材料は、適切な方法で除去し、清掃する。(引用:参考文献2)
10.最終確認
工事全体の仕上がりを確認する。
防塵シートを取外し、足場を撤去の上、片付け・清掃を行う。
備考
(※1)
エポキシ樹脂の注入によりタイルが共浮きする可能性がある場合は、「タイル張替え工法」(RC造G-2-307)の採用を併せて検討する。
(※2)
注入口付アンカーピンを用いてタイル陶片の浮き部分を下地モルタルに密着させる工法として、「注入口付アンカ-ピンニングエポキシ樹脂注入タイル固定工法(RC造G-2-313)」がある。
(※3)
アンカーピンの挿入本数(参考:参考文献2)
注入口付アンカーピンニング部分エポキシ樹脂注入工法 浮き部分に対するアンカーピン本数は、特記がなければ、一般部分は9本/㎡、指定部分(見上げ面、ひさしのはな、まぐさ隅角部分等をいう。)は16本/㎡とする。狭幅部(幅200mm以下で帯状にはく離している幅の狭い箇所)は幅中央に200mmピッチに施工する。
注入口付アンカーピンニング全面エポキシ樹脂注入工法 浮き部分に対するアンカーピン本数及び注入口の数は、特記がなければ下表による。
注入口付アンカーピンニング全面ポリマーセメントスラリー注入工法
アンカーピン本数(本/㎡) 注入口の箇所数(箇所/㎡)
一般部分 指定部分 一般部分 指定部分
9 16 9 16
(※4)
注入口付アンカーピンの品質基準は(社)建築研究振興協会から提案されている「注入口付アンカーピンの品質・性能基準(2013年3月改訂)」(建築改修工事監理指針 令和4年版(上巻)[p406~407])が参考にできる。呼び径は外径6mmを標準とするが、モザイクタイルを使用した外壁などで6mmよりも小さい径のアンカーピンを用いる場合には、上記の品質基準による4.5mm以上を用いる。
(※5)
ポリマーセメントスラリーの品質基準は「浮き部注入用ポリマーセメントスラリーの品質基準(案)」(建築改修工事監理指針 令和4年版(上巻)[p403~404])が参考にできる。
(※6)
注入口付アンカーピンニング部分エポキシ樹脂注入工法による浮き部改修工事を行った外壁においては、残存浮き部が存在することを認識する必要がある。(引用:参考文献3)

参考文献

書名[該当箇所](監修) 編著者 発行所
1 外壁仕上げの損傷事例 原因と対策[p29~31] 日本建築仕上学会 (株)技術書院
2 公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)令和4年版
[p88(4.3.4(3)),p90(4.3.5(7)), p93(4.3.11(10)),
p97(4.3.14),p98(4.3.15), p100(4.3.16),p102(4.4.4(3)),
p115(4.4.12~14)~p116(4.4.15)](国土交通省大臣官房官庁営繕部)
(一財)建築保全センター (一財)建築保全センター
3 建築改修工事監理指針 令和4年版(上巻)[p352~355p369~370p393~396p403~407p417~423,p425,p432,p470~473](国土交通省大臣官房官庁営繕部) (一財)建築保全センター (一財)建築保全センター