補修方法編

床の傾斜 梁下への柱増設 F-1-407
S造
工事概要
  • 鉄骨梁の下に新たに鉄骨柱を増設する 。

09_S補-02_F-1-407_2_図上.jpg柱の増設の概念図(chord作成)
09_S補-02_F-1-407_2_図下.jpg鉄骨柱を増設した例(chord作成)
対応する不具合と原因 不具合
  • 床の傾斜(F-1)
  • 床のたわみ(F-2)
  • 外壁の傾斜(G-1)
  • 内壁の傾斜(N-1)
  • 床振動(V-1)
原因
  • スラブとの接合・梁の断面寸法(せい)の不足
  • 工事中の一時的な過荷重の積載
適用条件
  • 補修工事に伴う荷重の変動を考慮した長期荷重によって既存の全ての架構に生ずる力が長期許容応力度内に収まっており、原則として躯体に不良箇所がない場合に適用が可能である。(※1)
  • 柱が増設されるため、美観や採光、その他納まり(サッシ、建具、増設柱との取り合い部等)に支障が生じない場合に適用できる。
  • 梁にガセットプレート等を溶接するため、増設柱下部の床を撤去することが可能であるなど、専門家の調査により施工の可否が確認できる場合に適用する。
  • 打込みする床のコンクリートは躯体と同じ仕様のコンクリートで、建物の設計基準強度以上であること。
工事手順の例
1.事前調査
現場調査により適用条件を満たしていることを確認する。
2.仕上材等の撤去・養生
内装部分に対する養生を行ない、梁下のサッシ及び施工箇所に接する内装を2m程度撤去する。
3.準備
必要に応じて足場を設置し、養生を行う。
器材・資材の搬入、仮設電源を準備する。
躯体の実測と墨出しをする。
増設する柱(梁に接合する支持柱)と接合する梁の接合面の塗料を剥がして、鉄骨面をグラインダー等で現す。また、増設柱柱脚の床コンクリートをはつり、同様の処理を行う。(※2)
  • デッキプレートは切断しないこと。どうしても干渉する場合は、アングル等で補強して支持する。
4.部材の実測と接合位置の確認
増設する柱の部材長さを実測し、接合位置を確認する。
増設柱と現場溶接するガセットプレート等の加工を鉄骨工場で行う。
高力ボルト取付用の孔あけを、現場加工する場合もある。
5.ガセットプレートの溶接
溶接の火の粉で火災が起きないように周囲を囲う。
梁に増設柱取付け用のガセットプレートを溶接する。
6.増設柱の建方
増設柱を建入し位置と垂直を確認して、高力ボルトで締め付ける。
7.型枠の加工・組立
床のコンクリート打込みのため、必要に応じて型枠を組み立てる。
8.コンクリートの打込み、又は無収縮モルタルの充填
床のはつり部分の打込み面を清掃、水湿しした上で、コンクリートを打込むか、又は、無収縮モルタルを充填する。
9.耐火被覆材の復旧
コンクリートの打込みののち、強度を確認、又は所定の存置期間を確保した上で、型枠を撤去する。
梁に耐火被覆材がある場合は復旧し、増設柱にも同様の耐火被覆を行う。なお、耐火被覆の仕様(1時間耐火、2時間耐火)を確認すること。
10.仕上材等の復旧・新設
撤去したサッシ、内装仕上材(床、壁、断熱壁)を復旧する。
増設する柱の外装仕上げを行う。
11.最終確認
水準器を用いて床仕上げ面の水平を確認する。
足場等を撤去のうえ、片付け・清掃を行う。
備考
    • 全体に梁のたわみが大きく上下振動の不具合が生じている場合には、増設する柱の下の梁強度を確保するために、下階から上階にかけて順に本補修工事を進める。ただし、下階の梁のみの強度で問題がなければ、該当する梁の下階のみに柱を増設することもある。なお、どちらも構造計算により安全の確認を行なう必要がある。
    • 鉄骨工事を伴う補修工事は上向き溶接等高度な技術が要求されるものも含まれるので、①鉄骨施工業者及び管理組織、②工事手順、③溶接技能者の資格、④溶接施工管理技術者及び非破壊試験検査技術者の資格等必要事項を記載した施工計画書又は施工要領書を施工者より提出を受け、事前に工事の内容を確認することが重要である。
    • 補修工事に先立ち、管理組合(分譲共同住宅の場合)又は建物所有者(賃貸住宅の場合)を介して下階住戸居住者の承諾を得る必要があり、別途仮移転、住戸の養生等が必要となる。
    • 合成デッキプレート床の場合は、セルフレベリング材により水平を修復すると良い。(S造F-2-403)
    • ALCパネル床の梁上のパネルを欠く場合は、支持できることを確認するか、補強を行うなどの対処が必要である。
    • 本工法により不具合の進行を抑えられても、床の傾斜等の不具合そのものが解消される訳ではないことに注意する。

(※1)増設する柱を受ける大梁に、面外たわみや座屈が生じないことを確認する。

(※2)増設する柱は、梁の鉛直荷重のみを支持するため、過度の曲げ応力等が集中しないよう接合部の納まりに配慮する。

参考文献

書名[該当箇所](監修) 編著者 発行所
1 建築改修工事監理指針 令和4年度(下巻)[8章13~15節,17~18節](国土交通省大臣官房官庁営繕部) (一財)建築保全センター (一財)建築保全センター