補修方法編

基礎の沈下 基礎をジャッキアップのうえ、耐圧版工法 K-1-502
木軸・木枠
工事概要

直接基礎の下に耐圧版を設置し、これを反力として利用し、建物を基礎からジャッキアップする工法である。薬液注入によって地盤を補強する必要が生じる場合もある。


耐圧版工法の例(chord作成)


薬液注入を行う場合の例(chord作成)
対応する不具合と原因 不具合
  • 基礎の沈下(K-1)
原因
  • 地盤条件の設定過程の不良
  • 地盤条件設定値の不適合
  • 施工方法の選択不良
  • 基礎形式の選定の不適合
  • 基礎の断面寸法の不足
  • 基礎の配置・間隔不良
  • 敷地の安全対策の不備
  • 既存擁壁への対応不備
適用条件
  • 専門家による地盤調査(支持力、沈下量、土質等)により、現況地盤の長期に生ずる力に対する許容応力度を確認し、自重による沈下その他の地盤の変形等を考慮して建築物又は建築物の部分に有害な損傷、変形及び沈下が生じないことが構造計算により確かめられること。
  • ジャッキアップ時に必要な反力が確保できること。
  • 既設の基礎が直接基礎であること。
  • 掘削及び薬液注入に必要なスペース(建物回り2.5m程度)があること。
工事手順の例
1.事前調査
現場調査により、適用条件を満たしていることを確認する。
沈下の状況、原因を確認し、施工計画を立て、工期を決定する。
  • 既往の地質調査結果などを良く理解し、支持層の深さ、また適当な深さの範囲に支持層を確認することができない場合は、油圧ジャッキの基礎部分の地盤について強度と性状を把握する。
(※:薬液注入を行う場合)
2.地盤改良(1)※
建物外周より硬化液剤注入の為のロッドを挿入し、そこから硬化液剤を圧送注入する。
  • 注入の下端深度は原則として支持層までとするが、適当な範囲に支持層が無い場合は、平面的な注入範囲を広く設定し、ジャッキアップした時に注入地盤自体が沈下しないようにする。
  • 硬化液は、通常セメント系の硬化液を用いるが、対象地盤が砂層などの場合には、地盤に硬化液を浸透させて強度増加を図るため、溶液型の薬液を用いることもある。
3.地盤改良の効果の確認※
硬化養生期間を置いた後、ボーリング及びサウンディング等により地盤改良の効果を確認し、地耐力を評価する。地耐力が不十分な場合は、さらに地盤改良を行うこともある。
4.地盤の掘削
繰り返し
建物外周部の出隅、入隅を含む要所(柱下等)の基礎の直下部分に、当該部分屋外側半径1m程度の範囲を基礎底盤深さ+油圧ジャッキ高さ程度の深さまで掘削し、油圧ジャッキを設置する場所を確保する。
5.油圧ジャッキ等を設置
4で掘削した基礎の下部に、油圧ジャッキを設置する。この際、ジャッキ設置面が水平であることを確認し、耐圧版(鉄板及びPCブロック等)をジャッキの下に敷く。
掘削と耐圧版及びジャッキの設置を繰り返し、建物全体を耐圧版と油圧ジャッキで仮受けする。
給排水・ガス等の設備配管の切断・先止めを行う。
6.ジャッキアップ及び建物の水平調整

ジャッキアップ及び建物の水平調整(chord作成)
水平面を設定し、レベルや水盛管等を用いて建物全体がほぼ均等に上がるよう確認しながら、1㎝程度づつ順番にすべてのジャッキを調整しながら、水平になるまでジャッキアップを行う。
7.サンドル組み及び建物全体の本受け
サポートジャッキを用いるか、すべての油圧ジャッキの横に、レベル調整のためのPCブロックと鉄板(スペーサーとして使用)を基礎底盤と既設PCサンドルの間に隙間なく設置する。
油圧ジャッキを順番に下げ、PCサンドルとスペーサー又はサポートジャッキで建物全体を本受けする。
8.油圧ジャッキの撤去
レベルや水盛管等で水平レベルを確認し、油圧ジャッキを取り外す。
なお、水平でない場合は6~7の作業を水平が確認できるまで繰り返す。
給排水・ガス管の配管・接続。
9.基礎下充填工事
掘削部分のPCサンドル又はサポートジャッキを包み込んで、基礎底盤まで発泡モルタル又は流動化処理土で充填する。
10.埋戻し
基礎下の埋戻し以外の掘削部分を地表面まで埋め戻す。
(※:薬液注入を行う場合)
11.地盤改良(2)
     ※
必要に応じて、埋め戻された地盤のゆるみ防止・強化を目的として、硬化液剤注入の為のロッドを地盤に挿入し、そこから硬化液剤を圧送注入する。
12.最終確認
レベルや水盛管等を用いて建物全体の設置高さ、水平を再度確認する。
器材及び資材を撤去・搬出のうえ、片付け・清掃を行う。
備考
  • 補修工事完了後においても、沈下の進行の有無を確認するなど、基礎や地盤の状況に注意する。
  • ジャッキアップに伴い、外壁等にひび割れ等が生じた場合には、併せて補修する必要がある。
  • 施工は、ほぼ基礎下のみであり、設備管等の盛替えにより、建物を平常通り使用しながらの施工も可能な場合がある。
  • 施工に際しては以下の条件も重要である。
    • 基礎下掘削用の進入口が確保できること。
    • 基礎下掘削時に地下水の多量な湧水が生じない地盤であること。
    • 基礎に変形に伴うひび割れ等がないこと。
  • 既設の基礎が擁壁等に近接している場合は、注意して補修すること。
  • 擁壁を併せて補修する場合には、擁壁に有害な損傷、変形及び沈下が生じないように安全性を確認すること。(建基法令第142条及び建基法告示平12建告第1449号「煙突、鉄筋コンクリート造の柱等、広告塔又は高架水槽等及び擁壁並びに乗用エレベーター又はエスカレーターの構造計算の基準を定める件」参照)
  • べた基礎の場合は、外周部等に本シートの工法を用い、内部の底盤下部にウレタン樹脂を注入して沈下修正する併用工法もある。(参考:参考文献1)

参考文献

書名[該当箇所](監修) 編著者 発行所
1 建築技術2012年2月号[p158~161] 伊藤茂雄 (株)建築技術