• 適切に設計・施工された住宅であっても、軽微な床のたわみは発生することがある。
• たわみ量を測定し、発生しているたわみの程度を確認する。

１．たわみ量の測定

• 床面が水平面に対してどの程度たわんでいるかを測定する。具体的方法としては、水糸を用いた方法（１－１）、レーザーレベル等を用いた方法（１－２）、勾配計を用いた方法（１－３）が想定される。
• 発生しているたわみが「歩行等に伴い生じるたわみ」の場合には、測定は荷重をかけた状態(最大たわみの状態)で行う。
• 測定は、部屋単位を基本として行う。
• 仕上材に局部的な浮きや反りがある場合は、その部分を測定部位に含まないようにする。
• カーペット敷きのような床が平滑でない仕上げの場合には、可能な限り仕上材をはがし、平滑な床下地材等の面で測定する。はがすことが不可能な場合は、カーペット等の影響を受けないよう、スケールをあてる部分に硬いプレートを置いて測定する。
• 積載荷重がある場合は、除荷した状態で測定する。

１－１．水糸を用いた方法

＜方法１＞

（１）調査方法

①

たわみがあると想定される部屋の床に対角線上に水糸を張る。

②

中央または最もたわんでいると見られる箇所で、床と水糸との垂直の距離を測定する。

③

上記②の測定値を部屋の短辺方向の水平距離で除し、たわみ量「xx/1000」を算定する。

（２）注意事項等

• 特になし

＜方法２＞

（１）調査方法

①

たわみがあると想定される部分を中心にして、（部屋の壁の線に平行になるように）直交するX軸、Y軸を想定する。

②

脚部に底板がついて安定した棒（固定具）を２本１組で２組（計４本）用意し、うち２本の固定具の底板の下から5cmの位置に水糸を巻き付ける。

③

X軸、Y軸方向の部屋の長さを測定し、水糸の総長（２本の固定具間の水糸の長さ）はこのそれぞれの部屋の長さより長くなるように用意する。水糸の一方の端部を床から5cmの位置に固定する。

④

水糸を用いた測定（chord作成）

固定した端部を基点にして、X軸、Y軸に沿って、水糸がたるまないように両側を固定する。

⑤

X軸、Y軸の各軸について、最もたわんでいる地点の床と水糸の垂直距離をスケールを用いて測定する。
局部的なたわみと想定される場合は、水糸を短くして、部分的に測定し、その時に使用した水糸の長さを確認しておく。

⑥

測定値から5cm引いたものを、部屋の短辺方向の水平間距離で除し、たわみ量「xx/1000」を算定する。

（２）注意事項等

• 部屋の壁際にもたわみが発生している場合は、壁際に沿ってたわみを同様に測定し、上記のたわみに加える。

１－２．レーザーレベル等を用いた方法

（１）調査方法

レーザーレベルを用いた測定（chord作成）

①

たわみがあると想定される部分を中心にして、（部屋の壁の線に平行になるように）直交するX軸、Y軸を想定する。

②

各軸毎に、両側の向かい合う壁の一方にレーザーレベルを設置し、反対側の壁に投射されたレーザーの中心と床との垂直距離が、レーザーレベルの発射位置の中心と床との垂直距離と同じになるよう調整する。
（レーザーレベルの発射位置は、できるだけ床の近くにした方が測定しやすい。）

③

各軸について、最もたわんでいる地点でレーザーを遮るもの(白い紙等)を垂直に置き、投射されたレーザーの中心と床の垂直距離をスケールを用いて測定する。

④

測定値からレーザーレベルの発射位置の中心と床との垂直距離を引いたものを、部屋の短辺方向の水平距離で除し､たわみ量「xx/1000」を算定する。

（２）注意事項等

• レーザーレベルのかわりに、レーザープレーナーを使用して測定することもできる。これらの機器の中には、自動的に水平調節するものもある。この場合は水平面に対する測定値となるため、測定結果を補正する必要がある。

１－３．勾配計を用いた方法

（１）調査方法

①

たわみがあると想定される部分を中心にして、（部屋の壁の線に平行になるように）直交するX軸、Y軸を想定する。

②

各軸毎に、両側に向かい合う壁のそれぞれから、たわみの凹部（最も低い地点）までの水平距離を測定する。

③

測定した水平距離を勾配計の１回の測定可能長さで割り（小数点以下を切り上げ）、測定回数を決める。

④

②で測定した距離を測定回数で割り、１回で測定する距離を決める。

⑤

勾配計を用いた測定（chord作成）

②で水平距離を測定した線に沿って、それぞれの壁際からたわみの凹部まで④で決めた測定距離ごとに勾配計をずらしながらたわみを測定する。
（最後の１回はたわみの中心から測定する。）

⑥

たわみの凹部を挟む両側の傾斜の測定値の平均を1/2し、部屋の短辺方向のたわみ量「xx /1000」を算定する。

Ex.

• 1mの勾配計を使用する場合で測定長②が5.5mであれば、
  5.5÷1=5.5→切り上げて6→6回計測する。
  5.5÷6=0.92→92cmごとに計測する。
  よって92cmずつずらして6回測定する。
• 凹部を挟む両側の３回ずつの測定値が以下の場合
  ＊6/1000，4/1000，2/1000　の平均　4/1000
  ＊6/1000，5/1000，1/1000　の平均　4/1000
  

（２）注意事項等

• 特になし

• 測定されたたわみ量については、たわみ制限等に係る資料を参考にして、不具合事象の程度の大きさを判断する必要がある。
• たわみ量が大きい場合は、基礎の沈下や軸組の変形等に起因する床のたわみである可能性がある。
• たわみ量が小さく、かつ他の不具合事象が確認されない場合は、適切な設計・施工が行われていても発生することがある軽度の傾斜である可能性がある。
• たわみ量を測定した結果、最大たわみの発生位置から原因を推定しておくと、以降の調査が進めやすくなる。

  ①

  たわみ量の最大の位置が、床組を構成する水平部材（大引き、根太等）の支点間距離の中央部にある場合は、「床組を構成する水平部材（大引き、根太等）」に起因している可能性がある。

  ②

  たわみ量の最大の位置が上記以外で、その部分に重量物が設置されている場合には、「過荷重」に起因している可能性がある。

  ③

  たわみ量の最大の位置が、床束の直上にある場合には、「材の収縮」または「床束の沈下、転び等」に起因している可能性がある。

  ④

  たわみ量の最大の位置が、基礎の直上にある場合には、「基礎の沈下」に起因している可能性がある。

• １－１：水糸
• １－２：レーザーレベルまたはレーザープレーナー
• １－３：勾配計
• 各方法共通：スケール

• 床組が適切に設計されているか等を確認する。

１．床組構成部材の設計内容の確認

①

床構成部材の断面寸法等（ｂ. ｆ．※３）

②

床構成部材の材料の選択（※３）

③

床構成部材の配置・間隔（※３）

④

床構成部材の架構・接合方法（☆１、※１）

⑤

水平構面の剛性確保の仕様（☆１、※１）

⑥

木材の基準強度（ｃ．ｅ.ｇ）

⑦

床高の設定

⑧

基礎立ち上り高さの設定（ａ．ｄ．☆２、※２）

⑨

基礎断熱の仕様（※４）

⑩

地盤の防蟻（☆２、※２）

⑪

床下の防湿・換気（☆２、※２）

（１）調査方法

• 当該住宅の設計図書（設計図、仕様書等）を対象として、上記＜確認のポイント＞に沿って、各部材の断面寸法・配置等が適切であるかを確認する。なお、適切であるかの検討にあたっては、関係法令告示、建設住宅性能評価関連図書等により、また(独)住宅金融支援機構編集「木造住宅工事仕様書」、(一社)日本建築学会「木質構造設計規準・同解説」、 (公財)日本住宅・木材技術センター発行「木造軸組工法住宅の許容応力度設計」、その他の仕様書、基準等が参考となる。
• 確認する主要な対象部位は、１階床組の場合、「大引き」「根太」｢床下地面材｣｢釘ピッチ」、２階床組の場合、「根太」「小梁」「大梁」｢床下地面材｣｢釘ピッチ｣とする。（小梁とは大梁の間に２～３尺（約600～900㎜）間隔で入れられる３～４寸（約90～120㎜）角前後の梁）
• ＜確認のポイント＞に沿って確認する主な項目を以下に列記する。

  ①

  床構成部材の断面寸法等

  • 床仕上材、下地材および大梁、小梁、土台、大引き、根太、床束、根がらみ等（ｂ.ｆ.☆１．※１．※３）
  • 部材断面に生じる応力度が許容応力度を超えないことを確かめる計算結果またはその結果によるスパン表への適合（☆１．※１．※３）
  • たわみ制限（ｂ.ｆ.）

  ②

  床構成部材の材料の選択

  • 部材断面に生じる応力度が許容応力度を超えないことを確かめる計算結果またはその結果によるスパン表への適合（☆１．※１．※３）
  • 土台の防腐防蟻措置（☆２、※２）
  • 浴室、脱衣室の床組の防水措置（☆２、※２）

  ③

  床構成部材の配置・間隔

  • 部材断面に生じる応力度が許容応力度を超えないことを確かめる計算結果またはその結果によるスパン表への適合（☆１．※１．※３）

  ④

  床構成部材の架構・接合方法

  • 通し柱と胴差の接合部と水平構面外周横架材の接合部（☆１、※１）

  ⑤

  水平構面の剛性確保の仕様

  • 火打ち材の設置（☆１、※１）
  • 存在床倍率に応じた床組の仕様（☆１、※１）
  • 耐力壁線の相互の間隔（☆１、※１）

  ⑥

  木材の基準強度（ｃ．ｅ．ｇ．）

  ⑦

  床高の設定

  • 床下に防湿上有効な措置を講じない場合45センチ以上

  ⑧

  基礎立ち上り高さの設定

  • 30センチ以上（ａ．ｄ.）
  • 40センチ以上（☆２、※２）

  ⑨

  基礎断熱の仕様

  • 断熱材の施工位置と防蟻措置（※４）

  ⑩

  地盤の防蟻

  • 基礎の内周等の防蟻措置（☆２、※２）

  ⑪

  床下の防湿・換気

  • 床下の防湿措置と換気口（☆２、※２）
  • 床下の地盤面の高さ

（２）注意事項等

• 3階建て等の場合で、建築基準法の構造計算によって構造耐力上の安全性を確かめる場合には、平12建告第1459号「建築物の使用上の支障が起こらないこと～」（ｆ.）に適合する必要がある。

a.

建基法令第38条3・4項

b.

建基法令第82条4号

c.

建基法令第89条

d.

平12建告第1347号「建築物の基礎構造方法～」

e.

平12建告第1452号「木材の基準強度～」

f.

平12建告第1459号「建築物の使用上の支障が起こらないこと～」

ｇ.

平13国交告第1024号「特殊な許容応力度及び特殊な材料強度を定める件」

☆1

平13国交告第1347号「評価方法基準」第5の1「構造の安定～」

☆2

平13国交告第1347号「評価方法基準」第5の3「劣化の軽減～」

※1

「2022年版木造住宅のための住宅性能表示（構造編）」第8版（(公財)日本住宅･木材技術センター企画・発行）

※2

「2022年版木造住宅のための住宅性能表示（基本編）」第8版・劣化の軽減（(公財)日本住宅･木材技術センター企画・発行）

※3

「木造軸組工法住宅の横架材及び基礎のスパン表」 (2018)（（公財）日本住宅･木材技術センター企画発行）

※4

「木造住宅工事仕様書　2023年版」 p54,55(3.4)（(独)住宅金融支援機構編著、(株)井上書院発行）

• 「木造軸組工法住宅の許容応力度設計」2017年版（木造軸組工法住宅の許容応力度設計改訂委員会編集、(公財)日本住宅・木材技術センター企画発行

• 「木造住宅工事仕様書　2023年版」p118(5.8)（(独)住宅金融支援機構編著、(株)井上書院発行）

• 「木質構造設計規準・同解説」(2006)－許容応力度・許容耐力設計法 （(社）日本建築学会編集・発行）

• 「頑丈で長持ちする木造住宅施工チェックブック」(2008)p19～20（(財)日本住宅・木材技術センター）

• 「木造住宅の設計法」p103（学芸出版社）

• 「新・木のデザイン図鑑」（(株)エクスナレッジ）

• 次のいずれかの事項について、適切な設計が行われていない場合は、鉛直力に対して床組の剛性が十分得られないことが原因で、床のたわみが発生している可能性が高い。

  ①

  床構成部材の断面寸法等

  ②

  床構成部材の材料の選択

  ③

  床構成部材の配置・間隔

  ④

  床構成部材の架構・接合方法

  ⑤

  水平構面の剛性確保の仕様

  ⑥

  木材の基準強度

  ⑦

  床高の設定

  ⑧

  基礎立ち上り高さの設定

  ⑨

  基礎断熱の仕様

  ⑩

  地盤の防蟻

  ⑪

  床下の防湿・換気

• ⑦から⑪について、床高、床下の防腐防蟻、防湿・換気等、適切な設計が行われていない場合は、床下の通風換気が悪くなるなど、床下の木材の早期劣化を招くことが原因で、床のたわみが発生している可能性が高い。

• 特になし

• 床組が適切に施工されているか等を確認する。

• 次のいずれかの事項について、設計どおりの施工が行われていない場合、または不適切な施工が行われている場合は、鉛直力に対して床組の耐力が十分得られないことが原因で、床のたわみが発生している可能性が高い。

  ①

  床組構成部材の断面寸法等

  ②

  床組構成部材の材料の選択

  ③

  床組構成部材の材料の品質

  ④

  床組構成部材の配置・間隔

  ⑤

  床組構成部材の架構・接合方法

  ⑥

  水平構面の剛性確保の仕様

  ⑦

  木材の基準強度

  ⑧

  床高の設定

  ⑨

  基礎立ち上り高さの設定

  ⑩

  基礎断熱の仕様

  ⑪

  地盤の防蟻

  ⑫

  床下の防湿・換気

• 「③床組構成部材の材料の品質」について、床束や大引き等に用いる木材の乾燥が不十分な場合は、竣工後乾燥して、床束と大引き、床束と束石等の間に隙間を生じ、床のたわみが発生している可能性が高い。
• ⑧から⑫について、床高、床下の防腐防蟻、防湿・換気等、設計通りの施工が行われていない場合は、床下の通風換気が悪くなるなど、床下の木材の早期劣化を招くことが原因で、床のたわみが発生している可能性が高い。
  なお、継続して床下に水たまり等が生じている場合には、基礎の沈下、床下の設備配管からの漏水等が発生しているか、または床下の地盤面の高さが建物周囲の地盤面より低くなっている可能性がある。

• スケール
• 含水率計
• 懐中電灯

• 床仕上材等が適切に施工されているかを確認する。

• スケール

• 床のたわみは、床が支持できる許容範囲を超える重量の載荷（過荷重）が原因である場合も考えられるため、設計時に想定された積載荷重と実際に当該床に積載された重量とを比較検証する。

１．設計段階で設定した積載荷重の確認

（１）調査方法

①

設計図書等により、設定した積載荷重の数値を確認する。

②

設計図書等が不備であったり、判定できない場合は、設計者に、設定した積載荷重の数値を確認する。

（２）注意事項等

• 特になし

２．目視確認

（１）調査方法

①

たわみが発生している部分に、重量物が設置されているかを確認する。

②

重量物がある場合には、製品カタログ等により、重量（㎡当たり）を確認する。

（２）注意事項等

• 重量物が置かれていない場合でも、過去に置かれていたかを確認する。

３．除荷後のたわみ量の測定

（１）調査方法

①

前記２で確認された重量物が比較的容易に移動できる場合には、重量物を取り除いた上で、１ 不具合事象の程度の確認＜調査方法＞１－１により、たわみ量の測定を再試行する。
測定は方法１により、直後と１時間後の２回実施する。さらに６時間後、1日後、2日後・・・と必要に応じて一定期間毎に観察を行う｡

②

たわみ量の変化が概ね止まった時点で、詳細な方法（１不具合事象の程度の確認＜調査方法＞１－１の方法２、１－２、または１－３）により測定する。

（２）注意事項等

• 前記1で確認した設計荷重と比べて、載荷重量の方が小さい場合でも、検証のため、必要に応じて重量物を除荷して床のたわみの状況を観察する。

• 設計の段階で積載荷重の条件設定が行われているが、想定以上の積載荷重があった場合は、「不適切な使用」が原因である可能性が高い。
• 重量物の移動後、たわみ量が大幅に軽減する場合（時間の長短は問わない）は、床の設計・施工ではなく、「不適切な使用」が原因である可能性が高い。
• 重量物移動後、たわみ量が軽減しない場合には、「不適切な使用」が原因である可能性があるほか、重量物が直接の原因でなく、他に原因がある可能性がある。

• 特になし（測定時は１に準ずる）