１．屋根の塗膜のふくれ・割れ・はがれとは

• ｢建築改修工事監理指針 令和4年版（下巻）｣p31,34～35（国土交通省大臣官房官庁営繕部監修、（一財）建築保全センター発行）

２．発生原因

（１）

適切な設計・施工でも通常起こり得る塗膜のふくれ・割れ・はがれ
　適切な設計・施工が行われていても、大気汚染因子等の外力、気象因子、塗装下地からの劣化作用等により塗膜にふくれ・割れ・はがれ等が発生することがある。（参考２）

（２）

屋根のひび割れ等
　屋根が何らかの理由でひび割れ等をおこした場合は、これに連動して塗膜の割れ等が発生することがある。

（３）

不適切な塗装の設計
　設計段階において、以下の事項に不適切な点がある場合には、塗膜のふくれ・割れ・はがれにつながることがある。

①

材料の選択（参考３）

②

工法の選択（参考３）

（４）

不適切な塗装の施工等
　施工段階において、以下の事項に不適切な点がある場合には、塗膜のふくれ・割れ・はがれにつながることがある。

（環境条件）

①

適切な温湿度における施工

②

適切な気象条件における施工（参考４）

（材料）

③

材料の品質（参考５）

（施工）

④

既存塗膜(直近の塗装工事の際に、外壁等に残存していた塗膜)の除去（参考４、参考５）

⑤

汚れ・付着物の除去 （参考４、参考５）

⑥

研磨紙ずりの施工（参考4、参考６）

⑦

下塗り・中塗り・上塗りの施工 （参考4、参考６）

• ｢建築改修工事監理指針 令和4年版（下巻）｣p39（国土交通省大臣官房官庁営繕部監修、（一財）建築保全センター発行）

• ｢建築改修工事監理指針 令和4年版（下巻）｣p50～62,71～72（国土交通省大臣官房官庁営繕部監修、（一財）建築保全センター発行）

• 国土交通省総合技術開発プロジェクト「地域安心居住機能の戦略的ストックマネジメント技術の開発｣pⅢ-37～38（国土交通省国土技術政策総合研究所）

• ｢建築改修工事監理指針 令和4年版（下巻）｣p3～5,43～62,80～106（国土交通省大臣官房官庁営繕部監修、（一財）建築保全センター発行）

• ｢公共建築改修工事標準仕様書（建築工事編）令和4年版｣p241～249,256～274（国土交通省大臣官房官庁営繕部監修、（一財）建築保全センター発行）

１．改修設計・施工検討時の情報収集状況の確認

　改修設計・施工検討時に改修対象範囲の現況に関する情報収集が適切に行われていたのか否か、下記の内容について確認する。

①

情報収集範囲の確認

②

情報収集内容の確認

• 環境条件（温湿度・気象等）
• 塗装の仕様（塗装間隔・塗装回数・塗付け量・希釈率・製造所指定以外の材料の使用の有無・塗料の調合比・可使時間等）
• 下地処理状況（付着物等の清掃・ふくれ等の有無・下地の吸い込み状況等）
• 鉄鋼面及び亜鉛めっき鋼面の場合の下地処理状況（腐食、さびの除去の状況等）（参考７）

（１）

確認方法

• 住宅の所有者、居住者、管理者等に対してヒアリングを行うと共に、設計・施工関連図書や改修設計・施工時の記録等を収集し、実施内容の詳細な情報の把握に努める。記録等は下記を想定する。

  • 調査記録
  • 設計図書
  • 見積書（仕様、見積条件等）
  • 施工計画書
  • 工事記録写真
  • 工事完了報告書
  • 維持管理記録　等　　　　　

（２）

注意事項等

• 過去の設計図書等で塗膜の種類や改修履歴が特定できない場合は、専門家により、現地での目視・指触、機器分析等によって塗膜の種類を推定する。（参考８）ただし、塗膜の種類等の特定に関する既往の技術資料は少なく、調査方法は標準化されていないため、経験則によって行われており、推定することができない場合があるので留意する。
• 機器分析等による調査で塗膜の種類を特定できない場合は、「既存塗膜を全面除去することができれば、施工は新築工事に準じたものになること」（参考９）等を含めて、補修方法の検討を行う。

• 国土交通省総合技術開発プロジェクト「地域安心居住機能の戦略的ストックマネジメント技術の開発｣pⅢ-37～38（国土交通省国土技術政策総合研究所）

• 国土交通省総合技術開発プロジェクト「地域安心居住機能の戦略的ストックマネジメント技術の開発｣pⅢ-30（国土交通省国土技術政策総合研究所）

• ｢建築改修工事監理指針 令和4年版（下巻）｣p62（国土交通省大臣官房官庁営繕部監修、（一財）建築保全センター発行）

１．目視等による確認

（１）確認方法（参考１０、参考１１）

　目視等により、以下を参考にしてふくれ・割れ・はがれ等の形状・位置等を確認する。

• 目視・指触調査では、JIS K 5600に規定されている標準パターン写真を用いて劣化の程度を評価する。（参考１０）ふくれはJIS K 5600-8-2：2008、割れはJIS K 5600-8-4：1999、はがれはJIS K 5600-8-5：1999を用いる。（参考１０）
• 割れの状態は、クラックスケールや光学式ひび割れ幅測定器を用いて測定する。（参考１０）割れを確認したら、方角、部位、発生箇所（上塗り塗料、中塗り塗料、下塗り塗料）や状況、割れの幅を記録する。
• 可能ならば屋根に登り目視等により確認し、必要に応じて高所観察用のビデオカメラを活用する。

（２）注意事項等

• 特になし。

• 「建築保全標準・同解説　JAMS3-RC　調査・診断標準仕様書―鉄筋コンクリート造建築物」p151（（一社）日本建築学会）

１．塗装の仕様・工法の確認

①

材料の選択（参考１３）

②

工法の選択（参考１４）

（１）

調査方法

• 当該住宅の設計内容を確認することができる記録（設計図、仕様書、見積書等）が残っている場合は、これらを対象として、上記＜確認のポイント＞に沿って、材料、工法等が適切であるかを確認する。なお適切であるかの検討にあたっては、国土交通省大臣官房官庁営繕部監修｢公共建築改修工事標準仕様書｣、「建築改修工事監理指針」、その他の仕様書、基準等が参考となる。
  

  ①

  材料の選択（参考１３）
  

  • 種類、規格、製造所等
  • 素地・下地、既存塗膜、改修塗料との適合性
  • 上塗り塗料等の付着性を向上させるためのプライマーの使用　等

  ②

  工法の選択（参考１４）
  

  • 下地別の下地調整方法
  • 塗料別の工程　等

（２）

注意事項等

• 必要に応じ、材料の品質確保の方法や選択方法、及び適切な施工方法等について製造所等に確認する。
• 記録の内容と現場の状況に相違が生じる場合があるため、現場での確認を行うことが望ましい。
• 過去の設計図書等で塗膜の種類が特定できない場合は、専門家により、現地での目視・指触、機器分析等によって塗膜の種類を推定する。（参考１５）ただし、塗膜の種類等の特定に関する既往の技術資料は少なく、調査方法は標準化されていないため、経験則によって行われており、推定することができない場合があるので留意する。
• 機器分析等による調査で塗膜の種類を特定できない場合は、「既存塗膜を全面除去することができれば、施工は新築工事に準じたものになること」（参考１３）等を含めて、補修方法の検討を行う。

• ｢建築改修工事監理指針 令和4年版（下巻）｣p50～62,71～72（国土交通省大臣官房官庁営繕部監修、（一財）建築保全センター発行）

• ｢公共建築改修工事標準仕様書（建築工事編）令和4年版｣p241～249,256～274（国土交通省大臣官房官庁営繕部監修、（一財）建築保全センター発行）

• 国土交通省総合技術開発プロジェクト「地域安心居住機能の戦略的ストックマネジメント技術の開発｣pⅢ-30（国土交通省国土技術政策総合研究所）

１．書類による確認

• 国土交通省総合技術開発プロジェクト「地域安心居住機能の戦略的ストックマネジメント技術の開発｣pⅢ-37～38（国土交通省国土技術政策総合研究所）

• ｢建築改修工事監理指針 令和4年版（下巻）｣p3～5、p43～62、80～106（国土交通省大臣官房官庁営繕部監修、（一財）建築保全センター発行）

• ｢公共建築改修工事標準仕様書（建築工事編）令和4年版｣p241～249,256～274（国土交通省大臣官房官庁営繕部監修、（一財）建築保全センター発行）

• 施工内容を確認することができる記録（工事状況報告書、材料購入伝票等）が残っている場合は、これらについて、上記＜確認のポイント＞に沿って、把握できる範囲において、塗料に係る以下の項目の施工が設計どおりに行われているかを確認する。なお、設計図書等に記載のない部分については、国土交通省大臣官房官庁営繕部監修｢公共建築改修工事標準仕様書｣、「建築改修工事監理指針」、その他の仕様書、基準等を参考に確認する。

  ①

  適切な温湿度における施工（参考１９）

  • 低温時・高温時における施工
  • 塗料の製造所が定める気温、湿度以下での施工　等

  ②

  適切な気象条件における施工（参考１９）

  • 降雨・降雪時における施工
  • 絶えず結露が発生するような場所での施工　等

  ③

  塗料の材料の品質（参考２０）

  • 材質
  • 保管温度
  • 貯蔵期間・方法
  • 希釈方法　等

  ④

  既存塗膜の除去（参考１９、参考２０）

  • 付着性が低下した既存塗膜の除去　等

  ⑤

  汚れ・付着物の除去（参考２０）
  

  • 汚染物質の種類、付着形態、建築物の部位に応じた除去方法　等

  ⑥

  研磨紙ずりの施工（参考２１）

  • 素地・下地面の平滑性の確保　等

  ⑦

  下塗り・中塗り・上塗りの施工（参考１９、参考２１）
  

  • 塗料の塗付け量
  • 標準工程間隔時間
  • 標準最終養生時間　等

• 国土交通省総合技術開発プロジェクト「地域安心居住機能の戦略的ストックマネジメント技術の開発｣pⅢ-37～38（国土交通省国土技術政策総合研究所）

• ｢建築改修工事監理指針 令和4年版（下巻）｣p3～5,43～62,80～106（国土交通省大臣官房官庁営繕部監修、（一財）建築保全センター発行）

• ｢公共建築改修工事標準仕様書（建築工事編）令和4年版｣p241～249,256～274（国土交通省大臣官房官庁営繕部監修、（一財）建築保全センター発行）

• 必要に応じ、材料の品質確保の方法や選択方法、及び適切な施工方法等について製造所等に確認する。
• 記録の内容と現場の状況に相違が生じる場合があるため、現場での確認を行うことが望ましい。
• 過去の施工記録等で塗膜の種類が特定できない場合は、専門家により、現地での目視・指触、機器分析等によって塗膜の種類を推定する。（参考２２）ただし、塗膜の種類等の特定に関する既往の技術資料は少なく、調査方法は標準化されていないため、経験則によって行われており、推定することができない場合があるので留意する。
• 機器分析等による調査で塗膜の種類を特定できない場合は、「既存塗膜を全面除去することができれば、施工は新築工事に準じたものになること」（参考２０）等を含めて、補修方法の検討を行う。

• 国土交通省総合技術開発プロジェクト「地域安心居住機能の戦略的ストックマネジメント技術の開発｣pⅢ-30（国土交通省国土技術政策総合研究所）

２．目視等による施工状況等の確認

• 書類により確認した内容と実際の施工状況が一致しているか、不適切な施工が行われていないかを現場において目視等により確認する。
• 問題の箇所が発見された場合には、写真等で記録をとる。確認した結果を、設計図書等と照らし合わせて確認する。

①

ふくれ

• 上塗り塗膜、中塗り塗膜、下塗り塗膜からのふくれに分けられる。
• 改修履歴の状況によってはさらに下層でふくれに至っていることがある。
• ふくれが生じている塗膜を把握するためには、当該塗膜までケレン除去する。その際、当該塗膜の付着力が低下している危険性があるため、皮スキ、スクレーパー等で十分に付着低下部分を除去し、ふくれ発生面積とその分布状態等を確認する。

②

割れ

• 一般的には、塗膜表面の浅割れと下塗り塗膜又は素地が見える程度の深割れに分けられる。どの層で割れているかを確認する。

③

はがれ

• 一般的には、小はがれ、大はがれ、層間剥離に分けられる。
• はがれが生じている層を把握するためには、はがれ発生層まで塗膜をケレン除去する。
• 代表的な箇所で付着力試験を実施する等し、その結果とはがれ箇所、発生箇所の分布状態等を確認する。

• 国土交通省総合技術開発プロジェクト「地域安心居住機能の戦略的ストックマネジメント技術の開発｣pⅢ-32～33（国土交通省国土技術政策総合研究所）

• 特になし

①

クロスカットテスト等による確認

　塗膜の付着力を確認する場合は、試験・破壊調査を行う。試験・破壊調査では、JIS K 5600-5-6：1999に規定されているクロスカットテストや引張試験器による付着強さ試験を行い、破壊強度と破壊箇所を記録する。（参考２４）

②

分析機器による確認

　塗膜表面に付着している物質や塗膜の成分を特定するために試料を採取し、分析機器による調査を実施することがある。（参考２４）

• 「建築保全標準・同解説　JAMS3-RC　調査・診断標準仕様書―鉄筋コンクリート造建築物」p151（（一社）日本建築学会）

• 特になし

• 次のいずれかの事項について、設計どおりの施工が行われていない場合、又は不適切な施工が行われている場合は、それに起因して塗膜のふくれ・割れ・はがれが発生している可能性が高い。

（環境条件）

①

適切な温湿度における施工

②

適切な気象条件における施工

（材料）

③

材料の品質

（施工）

④

既存塗膜の除去

⑤

汚れ・付着物の除去

⑥

研磨紙ずりの施工

⑦

下塗り・中塗り・上塗りの施工

①

ふくれ

• 水分が塗膜を浸透していた場合は、塗膜下の水溶性物質を溶かした可能性が高い。（参考２５）
• 下地にさびが発生していた場合は、さびが次第に増大して塗膜を押し上げた可能性が高い。（参考２５）
• 既存塗膜にふくれが確認された場合は、当該ふくれに気付かずに改修した、又は、既存塗膜が熱可塑性の塗料だった可能性が高い。
• 下地に空いた小さな穴に⽔分が含まれていた場合や下地の乾燥不足があった場合は、熱によりその水分が膨張した可能性が高い。

②

割れ

• 時間の経過により塗膜の柔軟性が失われていた場合は、塗膜面の収縮膨張に応じて割れが発生した可能性が高い。（参考２５）
• 塗膜表面に細かい割れが発生していた場合は、寒冷期の工事において気温が最低造膜温度以下だった可能性が高い。　

①

はがれ

• 既存塗膜が十分に付着していないことが確認された場合は、不具合の原因が当該塗膜に起因している可能性が高い。（参考２５）
• 下地に油や汚れが付いていることが確認された場合は、不具合の原因が下地調整の不備に起因している可能性が高い。（参考２５）
• 下塗りと上塗りとの界面ではがれていることが確認された場合は、不具合の原因が下塗りと上塗りとの適合性に起因している可能性が高い。（参考２５）
• 素地面にさびの発生が確認された場合は、不具合の原因が不十分なさび落としに起因している可能性が高い。（参考２５）
• 亜鉛めっき鋼面に適切な下塗り(さび止め)をせずに塗装されていることが確認された場合は、不具合の原因がその下塗りを行わなかったことに起因している可能性が高い。

• ｢建築改修工事監理指針 令和4年版（下巻）｣p31（国土交通省大臣官房官庁営繕部監修、（一財）建築保全センター発行）