補修方法編

床のたわみ スラブ下面への鉄骨小梁増設 F-2-304
RC造
工事概要
  • スラブ下面に鉄骨梁を梁の間に架け渡し、ひび割れを樹脂注入により補修した後、鉄骨梁とスラブ下面の間に無収縮モルタルを充填する。
  • 床のたわみ修正が必要な場合には、セルフレベリング材による床の補修(RC造F-2-305)による。


06_RC補-02_F-2-304_2_図2020.jpg概念図(chord作成)
対応する不具合と原因 不具合
  • 床の傾斜(F-1)
  • 床のたわみ(F-2)
  • 床振動(V-1)
原因
  • スラブの配筋方法の不良(配筋位置のずれ等)
  • コンクリートの打込み・締固めの不良、養生の不良
  • 工事中の一時的な過荷重の積載
適用条件
  • 補修工事に伴う荷重の変動を考慮した長期荷重によって既存の全ての架構に生ずる力が長期許容応力度内に収まっており、原則として躯体コンクリートに不良箇所がない場合に適用が可能である。
  • 鉄骨小梁を受ける梁が荷重負担に耐えられること。
  • 鉄骨小梁の接合は地震時に損傷する範囲(梁の端部塑性領域、貫通孔近傍、ひび割れ等の損傷部等)を避けること。
工事手順の例
1.事前調査
現場調査により、適用条件を満たしていることを確認する。
たわみの状況、原因を確認し、施工計画をたて、工期を決定する。
2.内装仕上材等の撤去
当該住戸の(たわんだスラブの補修範囲の)下階住戸の壁、天井仕上材を撤去し、内装部分に対する養生を行う。
3.準備
器材・資材の搬入、仮設電源を準備する。
足場を設置する。
躯体の実測と墨出しをする。
4.鉄骨小梁の設置
鉄骨小梁(H形鋼)の設置位置に合わせて、ガセットプレート取付用あと施工アンカーを両側の梁にセットする。なお、無収縮モルタル充填のH形鋼天端とスラブ下端のクリアランスは、施工性や搬入のためのH形鋼の分割による継手の有無等から決定される。
ガセットプレートをH形鋼にセットする。
H形鋼を設置し、高力ボルト締めを行う。
06_RC補-02_F-2-304_5_4_図上.jpg
※既存躯体の精度に対応する調整は、ベースプレート側の無
 収縮モルタルで調整する。なお、ガセットプレートのボル
 ト孔を水平方向ルーズとする場合もある。

06_RC補-02_F-2-304_5_4_図下2020.jpg※アジャストボルトを省略する場合もある。

鉄骨小梁の取付例(引用:参考文献6一部加筆修正)
5.ひび割れ補修
スラブのひび割れを樹脂注入工法で補修する。
6.無収縮モルタルの圧入と養生
H形鋼上部とスラブ下端のすき間に無収縮モルタルを圧入して、スラブ荷重をH形鋼に伝達できるようにする。
圧入ののち、強度を確認、または所定の存置期間を確保する。

06_RC補-02_F-2-304_5_6_図.jpg

※上記の他、固練りの無収縮モルタル等を充填する場合も
 ある。

無収縮モルタルの圧入例(chord作成)
7.内装仕上材等の復旧
床レベルの補正を行い、撤去した補修スラブの床仕上げ、下階の床・天井仕上げを復旧する。
8.最終確認
水準器を用いて床仕上げ面の水平を確認する。
足場等を撤去のうえ、片付け、清掃を行う。
備考
  • 補修工事に先立ち、管理組合(分譲共同住宅の場合)又は建物所有者(賃貸住宅の場合)を介して下階住戸居住者の承諾を得る必要があり、別途仮移転、住戸養生等が必要になる。
  • JIS形高力ボルト、トルシア形高力ボルトを使用する場合が多い。
  • あと施工アンカーを用いて補修を行う場合は平13国交告第1024号「特殊な許容応力度及び特殊な材料強度を定める件」に適合する必要がある。
  • あと施工アンカーを用いて工事を行う場合は、強度や耐久性等の品質を確保するために、「あと施工アンカー・連続繊維補強設計・施工指針」や「建築改修工事監理指針」等、適切な指針類に基づいて管理・施工する。
  • ひび割れによる床強度の低下や床振動の拘束等の補修方法としては、確実な工法である。ただし、床配筋がベンド配筋の中央部シングルの場合は注意が必要となる。
  • 鉄骨小梁に耐火被覆が必要な場合がある。
  • あと施工アンカーは地震時に抜け出す状態を想定し、鉄骨小梁が落脱しないように措置を講ずる必要がある。

参考文献

書名[該当箇所](監修) 編著者 発行所
1 建築技術1990年3月号[p.150~154] 小柳光生 (株)建築技術
2 「あと施工アンカー・連続繊維補強設計・施工指針」 国土交通省住宅局建築指導課 国土交通省 HP
3 建築改修工事監理指針 令和4年版(下巻)[8章12節あと施工アンカー工事](国土交通省大臣官房官庁営繕部) (一財)建築保全センター (一財)建築保全センター
4 各種合成構造設計指針・同解説(第3版)[第4編各種アンカー設計指針] (一社)日本建築学会 (一社)日本建築学会
5 公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)令和4年版[8章12節あと施工アンカー工事](国土交通省大臣官房官庁営繕部) (一財)建築保全センター (一財)建築保全センター
コンクリート診断技術’23 基礎編[p313(図5.5.10-3)] (公社)日本コンクリート工学会 (公社)日本コンクリート工学会