補修方法編

外壁開口部に係る遮音不良 遮音性能のある外部建具への交換 SO-4-301
RC造
工事概要

外部建具の空気音遮断性能の向上を目的として、既存の外部建具を撤去し(※1)、遮音性能のある外部建具に交換する。


内側はつり工法の例(chord作成)
補修を行った部分を赤色で示す。
対応する不具合と原因 不具合
  • 外壁開口部に係る遮音不良(SO-4)
原因
  • 外部建具等の選択不良、品質・規格不適、設計上の納まり・施工及び建付け調整不良
  • 騒音源の存する方位に対する適切な外部建具選択への配慮不足 等
適用条件
  • 交換するサッシがサッシ(JIS A 4706:2021)及び実験室における建築部材の空気音遮断性能の測定方法(JIS A 1416:2000)に規定された試験方法により性能が確かめられたものであること。
  • 建具の寸法、断面、種類及び納まり等が既存の建具と同等であること。
  • 取付け作業に必要なスペース、足場等が確保できること。
工事手順の例
遮音性能向上を目的とする場合は、透過損失等級(外壁開口部)の評価方法基準に基づく仕様のサッシを用いた補修方法の例を示す。
1.事前調査
当事者へのヒアリングや現場での原因調査を行う。
騒音の発生状況を確認すると共に、原則として、外壁開口部の空気音遮断性能の測定を行い、実態を把握する。
  • 測定方法は、建築物の外周壁部材及び外周壁の空気音遮断性能の測定方法(JIS A 1430:2009)に規定されている「部材法のスピーカによる方法」又は同JIS附属書に示されている「内部音源法」によるものとする。
換気設備等を介して外壁開口部からの透過音以上の透過音がないことを確かめる。
2.目標性能を満たした製品の選定
事前調査で得られた結果に応じて、適用条件及び目標性能を満たすサッシを選定する。(※2)
3.足場の設置
必要に応じ外部足場を設置する。
騒音や粉塵に配慮し、養生を行う。粉塵対策として必要に応じて当該開口部の室内側に仮設の間仕切壁を設置する。
4.サッシ回りの内壁仕上げ、モルタル等の撤去 撤去作業は、全て内側から作業することを基本とし、状況により、外側の一部も撤去して施工する。
枠回りの内装材、下地モルタル、外部シーリング材等を撤去し、サッシを取り外すために必要な範囲のモルタルをはつる。
5.サッシ取り外し
サッシの取り外しに際し、躯体が構造上の不具合がない状態であることを確認する。
必要に応じ既存アンカー類を切断して、既存建具を躯体から撤去する。
水切りは外部シーリング目地位置でカットし、外部シーリング目地よりも外部側の部分は残置する。その際、外部側躯体及び既存外部仕上材を損傷しないように注意する。
既存アンカーが露出する場合は防錆措置を施す。(参考:参考文献1)
6.サッシ枠の取付け
既存アンカーが利用できない場合は、躯体にドリルで穴を開け、あと施工アンカーを所定の位置に打ち込む。
サッシの水平・垂直を保ち、所定の位置にはめ込み枠のねじれ等のないことを確認し、くさび等で仮止めする。
サッシをアンカーに溶接で固定する。溶接に際し溶接スパッタ等が枠材等に付着すると表面仕上げに悪影響を及ぼすため養生を行う。(参考:参考文献1)
新規水切りを既存水切りの上にかぶせてサッシ下枠と固定する。
7.サッシ枠と下地コンクリートのすき間にモルタル詰め
すき間ができないよう、充分にモルタルを詰める。その際仮止用のくさびは必ず取り除く。
断熱材を復旧する。
8.内外装下地材・仕上材の復旧
必要に応じ内外装材等を復旧する。
9.サッシ回りのシーリング材の施工
サッシ枠と躯体の間にシーリング材を施工する。
  • シーリング材は適切なものを使用する。
10.障子の建込み、調整
障子を建込む。
建付け、戸車、引寄せピース、クレセント、タイト材等の調整を行う。
11.最終確認
シーリング材が十分硬化したら、外部からの散水により浸水がないことを確認する。
足場がある場合は撤去の上、片付け、清掃を行う。
原則として外壁開口部の空気音遮断性能の測定を行い、発現性能の確認を行う。
備考
(※1)
外部建具を交換する工法には、既存建具の枠だけを残し、方立・無目・障子等を撤去し、既存建具枠の上にビス又は溶接で、補助材を用いて新規金属製建具を固定するカバー工法という方法もある。原則として既存建具枠に新規建具をかぶせる乾式工法であるため工期の短縮が可能となる。(参考:参考文献1)ただし、開口寸法が小さくなることに注意を要する。
(※2)
目標性能については、日本住宅性能表示基準 第5別表1の8の8-4透過損失等級(外壁開口部)の「(に)説明する事項」及び「(ほ)説明に用いる文字」欄が参考になる。

  • サッシの気密及び歪みの調整により遮音性能が向上する場合がある。
  • 本補修方法の例のほかに、製造所のカタログ値を参考にして、窓ガラスの仕様や開閉方式等を変更する方法もある。

遮音補修における注意点
遮音補修は、許容できる騒音の程度には個人差があることに十分に注意して行う必要がある。少しでも音が聞こえている以上、うるさいと評価される可能性を持っている。
したがって、遮音補修によってある一定の遮音性能を確保すれば万全ということではなく、ユーザーの要求や対象空間の音環境を十分調査する必要があるとともに、補修前に居住者等に十分に説明し、現状に対する騒音の低減の程度を理解してもらうことが重要である。(参考:参考文献2)

施工上の注意点
建具の適切な施工が担保されないと、障子と枠、障子の召し合わせ部、建具枠と外装材及び窓枠材と内装材等との間にすき間が生じる。すき間の発生は、気密性即ち遮音性能の低下に繋がり、サッシ単体の有する性能が発揮されなくなるため、以下の点に注意して施工する。
  • サッシの取り付け時において、サッシ枠の倒れ、たわみ、ゆがみ等が生じないようにする。
  • サッシ枠と躯体及び水切りとの取合い部分にすき間が生じないように、サッシ枠四周に確実なシーリングを施し、十分な防水性能の確保に努める。
  • サッシ枠と窓枠材と内装材との取合い部分にすき間が生じないように、サッシ枠四周に確実なシーリングや遮音シート等を施し、気密性の確保に努める。
  • 複層ガラスのサッシを採用する場合、同じ厚さのガラスを用いるとコインシデンス効果の影響が大きくなり、遮音性能が低減する場合があるため、ガラス厚さの選択には十分注意すること。
  • 撤去及び取り付け工事に際しては周囲への騒音・粉塵等の影響に配慮する。

参考文献

書名[該当箇所](監修) 編著者 発行所
1 建築改修工事監理指針 令和4年版(上巻)[p572,573,611,612](国土交通省大臣官房官庁営繕部) (一財)建築保全センター (一財)建築保全センター
2 部位別・図解 木造住宅の防音リフォームマニュアル [p140 7.3] (財)日本住宅リフォームセンター(現・(公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター) (株)彰国社
3 サッシ(JIS A 4706:2021)[9 試験方法及び計算方法] 揖斐 敏夫 (一財)日本規格協会
4 実験室における建築部材の空気音遮断性能の測定方法(JIS A 1416:2000)[6.試験方法] 島 弘志 (一財)日本規格協会